| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-315  (Poster presentation)

全循環湖から部分循環湖への変化が底生生物に与える影響について
Impact of the change from a full-circulation to a partial-circulation lake on benthic organisms

*邬倩倩(神戸大学), 周金鑫(東京大学), 河本達也(神戸大学), 石川俊之(滋賀大学), 坂田雅之(神戸大学), 後藤直成(滋賀県立大学), 北澤大輔(東京大学), 源利文(神戸大学)
*Qianqian WU(Kobe University), Jinxin ZHOU(Tokyo University), Tatsuya KOMOTO(Kobe University), Toshiyuki ISHIKAWA(Shiga University), Masayuki K. SAKATA(Kobe University), Naoshige GOTO(University of Shiga Prefecture), Daisuke KITAZAWA(Tokyo University), Toshifumi MINAMOTO(Kobe University)

琵琶湖は冬季に表層と深層の水が循環する全循環湖として知られているが、近年、温暖化による全循環の欠損や不全は、底層の低酸素化を引き起こし、底生生物の生存への影響が懸念される。よって、気候変化による底生生物の分布範囲や資源量を把握することが極めて重要である。本研究では、代表的な底生種であるスジエビとイサザを対象とし、環境DNA分析および水質測定の結果に基づく統計モデリングによって、湖中の環境DNA濃度の時空間的変動を予測した。統計モデリングの結果、スジエビの環境DNA濃度は水深、DO、および水温とDOの相互作用項、イサザの環境DNA濃度は水温、DO、水温とDOの相互作用項によって説明された。スジエビの環境DNAは全循環が観測された2016年度の冬季に北湖の北部に集中しており、特に北西部で高濃度となることが観察されたが、部分循環となった2019年度の冬には、環境DNAの分布はより広がり、北湖の北部や南西部の濃度が高かった。イサザの環境DNAは、2016年度の冬季には広範囲に分散しており、濃度の地域差が見られず、2019年度の冬季には、やや高濃度の環境DNAが北湖の南西部に集中していた。さらに、将来の分布予測では、スジエビの環境DNAは現在に比べてその濃度は極めて低くなった。イサザについては、冬季より夏季で環境DNA濃度が高く、現在の分布より減少傾向であったが、全循環が発生すれば現在の濃度より高くなる年もあった。以上の結果から、温暖化は底生生物の分布や資源量に大きな影響を与えることが定量的に予測された。特に、スジエビは環境変動に敏感であり、温暖化が続くと全循環が起きても資源量がすぐ回復できず、種の絶滅に繋がる危険がある。一方で、イサザは、全循環による資源量の回復が期待できる。今後対象種の環境変化への対応に応じた保全対策が必要になるだろう。


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