| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-319  (Poster presentation)

北海道に残るアイヌ語地名は希少種の分布を知る手がかりになるか?ー淡水二枚貝を例に
Do Ainu place names help to discover new populations of endangered species? ーA case study of freshwater mussel species

*三浦一輝(斜里町立知床博物館), 宇久村三世(しめっちネット), 平河内毅(港区立郷土歴史館)
*Kazuki MIURA(Shiretoko Museum), Miyo UKUMURA(Shimecchi Network), Tsuyoshi HIRAKOUCHI(Minato City Local History Mus.)

 絶滅危惧種の現在および過去の分布情報の蓄積は、絶滅リスクの評価や効果的な生息域内・外の保全に重要である。カワシンジュガイ属は河川に棲む二枚貝で、国内にはカワシンジュガイとコガタカワシンジュガイの2種が生息する。どちらも環境省のレッドリストにおいて絶滅危惧ⅠB類に選定されている。しかし、本属の近年と過去(主に1960年代以前)どちらの分布情報も限られている。本研究では、主にカワシンジュガイ属を示すと言われるアイヌ語「ピパ」に由来する地名(以後、ピパ地名)を文献から集め、1)本属の北海道における過去の潜在的な分布を空間的に示し、2)見つかった地名を現地調査することで、本属が現在も生息する河川を見つけられるか検証した。
 北海道のアイヌ語地名に関する文献をできる限り集め、計66の資料からピパ地名を抽出して地理的な位置を記録した。これにより、34箇所のピパ地名が見つかり、内25河川で現地調査を行なった。現地調査は2021年5〜8月に行い、各河川に1〜3の調査区間(川幅の10倍以上)を設け、調査者1〜2名が箱メガネを用いて区間内を網羅的に探索した。
 結果、北海道南部の渡島半島や東部、離島を除いてピパ地名が道内に広く存在したことが文献調査より示された。また、現地調査により、これまで論文等で報告されていない2河川において、コガタカワシンジュガイ個体群を新たに確認できた。
 以上より、アイヌ語地名を調べることで、北海道における過去のカワシンジュガイ属の潜在的な分布を空間的に広く示すことができた。また、現地調査により、これまで報告がない河川から2つの個体群を新たに確認できた。しかしながら、現在も本属が生息する河川は調査を行なった25河川中2河川と少なく、ピパ地名を指標とした場合にはすでに9割以上の川で本属が局所的に絶滅した可能性が高いことが示された。


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