| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-353  (Poster presentation)

環境DNA量と生物量の関係は環境DNAの性質と分析方法に依存する 【B】
The relationship between eDNA quantity and species abundance depends on eDNA characteristics and assay strategy 【B】

*徐寿明, 山中裕樹(龍谷大学)
*Toshiaki JO, Hiroki YAMANAKA(Ryukoku University)

環境中の生体外DNA (環境DNA) を用いた生物調査は、従来手法よりも非侵襲的かつ高感度なモニタリングを可能にする。一方、その移流拡散や分解の影響により、環境DNAに基づく生物量推定の精度には未だ課題が多い。一部の研究は、こうした環境DNAの時空間動態をモデリングすることで、より精度の高い生物量推定を試みてきたが、環境DNAの存在状態や分析方法が生物量推定精度に及ぼす影響に関する知見はほとんど無い。そこで本研究は、遺伝子領域と粒子径サイズの二点に着目し、環境DNAの分子学的・細胞学的性質が生物量推定結果に及ぼす影響を評価した。異なる生物量で馴致されたマアジ (Trachurus japonicus) 水槽から採取された飼育水を、異なる孔径サイズのフィルターでろ過し、ミトコンドリアおよびマルチコピー核DNAを対象としたリアルタイムPCRで環境DNA濃度をそれぞれ測定した。環境DNA濃度と生物量の相関性を調べた結果、回帰直線のR2値はミトコンドリアDNAよりも核DNAで高くなる傾向にあった。核環境DNAはミトコンドリア環境DNAよりも分解速度が高い可能性があり、本結果はそうした核環境DNAの性質を反映していると考えられる。次に粒子径サイズに関して、回帰直線のR2値は、>10 µm画分に対して3-10 µm画分で高くなり、0.8-3 µm画分で低くなる傾向にあった。これらは、組織片のような大きすぎる環境DNA粒子における不均一な空間分布、そして比較的小さな環境DNA粒子の水中での見た目の残存時間の長さが、生物量推定におけるバイアスとなる可能性を示唆している。一方、魚類など大型生物の環境DNAは3-10 µm画分に集中して存在することが知られており、水中での比較的均一な分布および短い残存性も相まって、より良い推定精度をもたらしたのかもしれない。今後、野外系での実証研究が求められる。


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