| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-355  (Poster presentation)

半自然草原の保全管理とベンケイソウの生育動態
Maintenance of semi-natural grasslands and ecology of Hylotelephium erythrostictum (Miq.) H.Ohba (Crassulaceae)

*川畑智尋(東京農業大学), 宮本太(東京農業大学), 高岸慧(東京農業大学), 新井勝利(軽井沢町植物園)
*Chihiro KAWAHATA(Tokyo Univ agriculture), Futoshi MIYAMOTO(Tokyo Univ agriculture), Kei TAKAGISHI(Tokyo Univ agriculture), Katsutoshi ARAI(Karuizawa Botanical gardens)

 長野県軽井沢町には1970年代まで多くの半自然草原が残されていたが、リゾート開発により、そのほとんどが消失した。現在は町の天然記念物として僅かな半自然草原が残され、希少な植物群や蝶類の生育・生息の場になっている。この草原を後世に残す為には草原管理体系を確立し、保全・保護を進める必要がある。本研究ではススキが優占する半自然草原において刈取り管理(6月および7月の一回刈区と6/7月の二回刈区、未管理区)を実施し、群落内で優占する中茎草本ベンケイソウHylotelephium erythrostictum H.Ohbaの季節消長を明らかにすると共に、管理後の生育から持続可能な草原管理方法を検討した。
 ベンケイソウの季節消長は3月に出芽、その後シュート伸長と葉の展葉、8月に花芽形成、9月までシュート伸長、開花、10月に開花・結実した。本種は茎を抽苔させる未開化と開花シュートがあり、管理次年度は6/7月刈は他区よりも伸長した。本種は管理当年も開花する個体があり、管理次年度は未管理区と比較して開花率が増加した。また、6/7月刈のベンケイソウの花数は他区と比較して増加した。草原管理次年度の優占度はヌスビトハギを除き大きく低下し、群落内の光環境は6/7月刈区が最も明るく、9月期の地上部総生産量は管理区が未管理と比較して50%以上減少した。群落内のススキの生産量は管理区が未管理と比較して減少した。
 ベンケイソウは刈取り当年、翌年共に開花したことで刈取り圧に強く、多回繁殖型多年草であることが明らかになった。6/7月の二回刈は一回刈と比較して群落内の光環境がより改善された。これによりベンケイソウの花数が増加したと考えられ、中茎・低茎草原性植物群の多様性維持・向上には、6/7月の二回刈が草原管理に有効である。また毎年6/7月の二回刈は植生に負荷が掛かることが考えられるため管理を隔年で行う必要がある。さらに6/7月の二回刈が難しい場合には、生育した植物の残渣量が刈取り期に少ない6月に実施することが望ましい。


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