| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-359  (Poster presentation)

多状態モデルを用いた標識情報に基づくツキノワグマの府県間・地域個体群間移動の推定
Estimation of inter-prefectural and inter-population movement of Asiatic black bear from capture–recapture data using a multistate model

*高木俊(兵庫県立大学), 飯島勇人(森林総合研究所), 深澤圭太(国立環境研究所), 横山真弓(兵庫県立大学)
*Shun TAKAGI(Univ. of Hyogo), Hayato IIJIMA(FFPRI), Keita FUKASAWA(NIES), Mayumi YOKOYAMA(Univ. of Hyogo)

行動圏の広い動物の保護管理においては、都道府県などの管理ユニット間での動物の移動を考慮した上で、地域個体群単位での保護管理の視点が必要となる。兵庫県ではこれまで、県単位でのツキノワグマの保護管理を実施してきたが、2019年以降近隣府県(京都府・鳥取県・岡山県)と連携して、近畿北部・東中国ツキノワグマ保護管理協議会を設立し、2つのツキノワグマ地域個体群の生息状況把握や府県で共通した保護管理方針を策定している。生息状況の把握は、各府県が実施する捕獲個体の標識・放獣・再捕獲のデータに基づいて実施されてきた。広域協議会の設立を機として、4府県の標識情報の統合データベースを構築し、各府県(管理ユニット)および地域個体群における生息状況およびユニット間の個体の移動確率を推定した。
標識個体が6ユニットのどこに存在もしくは死亡しているかの7状態を想定し、年ごとに生存・死亡・ユニット間移動が確率的に生じ、各ユニットにおいて捕獲観測されることを想定した状態空間モデルを作成した。推定の結果、隣接ユニット間での移動は最大で年率5.6%の割合で生じており、いずれかのユニットへの移出が8.4%に上るユニットも存在した。遺伝的な特徴から異なる地域個体群とされるユニット間においても、1%程度の個体が移動していると推定された。
広域協議会が設立されるまではユニット間、地域個体群間での移動は明示的に考慮されない形で生息状況の把握が行われており、地域個体群レベルの生息状況は各府県の実施した推定値の合計の形でしか得られなかったが、分布拡大や地域個体群間の連結性が回復しつつある中での生息状況把握には、ユニット間での移動を明示的に考慮した推定が有効と考えられる。また、近年の捕獲圧の増加から、新規の標識放獣数や再捕獲個体数が減少しつつあり、生息状況の把握が困難になる点が課題として考えられた。


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