| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-47  (Poster presentation)

マツカサガイの緊急避難生息域外保全技術の開発
Ex situ conservation of a unionid freshwater mussel Pronodularia japanensis

*中村柑南, 渡壁咲希, 高尾実里, 山本真慈(愛媛大学附属高等学校)
*Kanna NAKAMURA, Saki WATAKABE, Minori TAKAO, Shinji YAMAMOTO(ehime univ. senior high school)

愛媛県ではマツカサガイの生息地の減少が著しく、最後に残ったわずか1箇所の生息地においても、老齢個体だけがわずかに確認されるだけという状況にある。そうした中、2020年12月に県内2箇所目となるマツカサガイ生息地が、緊急農地再編整備事業対象区域内で新たに発見された。急ぎ、生息域外保全を行わなければ、生息地とともに個体群が消滅するが、他水域へ避難させて成功した先行研究は極めて少ない上、イシガイ類は水槽飼育の方法が確立されていない。本研究では、マツカサガイの生息域外保全に必要な知見、特に屋外の避難先候補の条件と、水槽飼育方法の探索を行った。2021年5月、県の特定希少野生動植物捕獲等の許可を取得した上で、住民による水路清掃によって陸揚げされて乾燥が進んだマツカサガイ155個体を回収した。しばらく水槽で維持し、生き残った99個体に個体識別を施し、11個体ずつ、屋外(ため池)2箇所と、屋内(飼育条件を変えた)6つの水槽へ入れ、4ヶ月間の成長を、元の生息地へ戻した11個体と比較した。また各地点のプランクトン叢を属レベルで同定し、それの構成と密度を記録した。その結果、屋外飼育においては、水温が低く遷移初期にあるため池が、先行研究と比べても生存率・成長率が著しく高いこと、昼の瞬間的な30℃を越える高水温には強くとも、27℃を越える水温が数日間維持されるような環境には弱いこと等が明らかになった。水槽飼育においては飼育水に牡蠣殻を作用させることと、種苗生産現場で用いられる海産プランクトンが、餌として有用であること等が明らかになった。また、これまで考えられていたほど、生存・成長のために珪藻を多くは必要としておらず、その種類も限定されていないと考えられた。高い成長量・生存率を維持しながら屋内外で飼育する方法を明らかにできたが、これらを応用した稚貝飼育には、まだ成功していない。稚貝の飼育、繁殖、安定した長期維持が課題である。


日本生態学会