| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S03-1  (Presentation in Symposium)

世界自然遺産地域を取り巻く緩衝地帯の現状と未来
Current status and future of buffer zones surrounding the World Natural Heritage Area

*高嶋敦史(琉球大学 / 農学部)
*Atsushi TAKASHIMA(Univ. Ryukyus / Fac. Agric.)

沖縄島北部やんばる地域の森林は、生物多様性の高さが評価されて脊梁部を中心に世界自然遺産に登録された。その一方で、やんばる地域の森林は、戦後の復興用資材の生産や本土復帰前後の木材需要の高まりを受け、大規模な伐採活動が行われてきた歴史がある。そのため、遺産地域内には比較的自然度の高い森林がまとまって残っているものの、その周辺の森林域には二次林や人工林などが広がっている。世界自然遺産への登録にあたり、この遺産地域周辺の森林は遺産地域を適切に保全するための緩衝地帯と位置付けられた。そのため、伐採活動や森林ツーリズムといった利用と保全のバランスを適切に保つことが求められている。やんばる地域の森林には、樹洞利用種や着生植物などの希少種が数多く分布し、その中には大径木に依存するものも多いことが明らかになってきている。しかしながら、自然度の高い遺産地域内の森林と緩衝地帯の二次林を比較すると、二次林では明らかに大径木が少なく、樹洞の量や質も劣り、希少種の生息・生育環境として十分ではない。そのため、緩衝地帯の二次林も、全体的に大径木の密度が高い森へと誘導していく必要があるだろう。また、世界自然遺産登録時には、諮問機関のIUCNから「緩衝地帯における森林伐採について適切に管理するとともに、あらゆる伐採を厳に緩衝地帯の中にとどめる」という要請も出されている。そのため、伐採後の森林の再生や、伐採が周辺の森林に及ぼす影響などに関する知見を積み重ね、科学的根拠に基づいた伐採地の選定や設定が必要になるだろう。さらには、今後需要の増加が見込まれる森林ツーリズムでの利用においても、管理体制やモニタリング体制の構築が急がれるだろう。


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