| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S07-3  (Presentation in Symposium)

生態系機能に対する種多様性と種内多様性の統合効果
Effects of intraspecific genetic variation on BEF relationships

*内海俊介(北海道大学)
*Shunsuke UTSUMI(Hokkaido Univ.)

生物多様性-生態系機能関係(BEF)については、これまでに多くの研究蓄積がある。だが、今までの研究では、分類学的種の数をもとにした種多様性と生態系機能の関係を調べたものがほとんどである。また、遺伝子型の数を操作することによっても遺伝的多様性と生態系機能の関係に関する同様の研究は近年進んでいるが、種多様性と種内の遺伝的多様性の双方の生態系機能への影響を調べたものはほとんどない。しかし、植物間相互作用研究の進展から、植物の成長や繁殖および競争の帰結には近隣個体の属性(遺伝的変異を含む)が大きく関わっていることが分かってきている。したがって、BEFの理解を深めるためには、種多様性と遺伝的多様性を別々に分けるのではない統合アプローチが必要である。
一方で、種多様性に加えて、複数種の遺伝的多様性を実験的に操作することも困難である。そこでわれわれは、種多様性操作実験において種内の遺伝的変異もNGSによって定量化することでこの課題に取り組んだ。皆伐地に森林再生実験区を造成し、種多様性を操作した野外実験では、種多様性と遺伝的多様性が増すことによって食害率の低下や生産性の増加が生じた。さらに、種間での平均遺伝的多様性、遺伝的多様性の変動は、生態系機能への種多様性効果の大きさに対して、有意に影響することが分かった。すなわち、それらの種内変異のパラメータによって、種多様性効果は逆転しうる。
さらにもう一つの研究事例についても議論する。種内の遺伝的変異に着目した実験研究では、近隣に存在する同種個体の近縁さによって、地下茎による無性繁殖への投資量が変化し、地下茎長や本数に影響が生じることが分かった。このことは、パッチ構造などの空間構造にも影響が及ぶ可能性を示唆しており、群集の空間構造の改変を通して、近隣個体間の相互作用の帰結が変化し、多様性効果へ波及する可能性も考えられる。これらについて議論する。


日本生態学会