| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S12-4  (Presentation in Symposium)

空間点過程の統計的側面と数学的側面
Statistical  and mathematical aspects of spatial point processes

*島谷健一郎(統数研)
*Ichiro Ken SHIMATANI(ISM)

全個体の位置がx-y(-z)座標で与えられている点配置データについて、ペア相関関数などを計算し、点分布パターンが集中型かレギュラー型かを識別し、その空間スケールを見積もる。こんな作業がパッケージソフトで行えるようになったのは10年以上も前のことだった。一方、ペア相関関数は背後に空間点過程モデルを仮定しており、その理論値の推定を実際のデータがそのモデルの一つの実現と仮定して行っているということは、ほとんど意識されていない。主な目的は、背後にある、その点配置を生成した生態学的メカニズムの解明であり、そのために空間点過程という確率過程モデルを利用する。その中の未知パラメータを推定したり、モデルの妥当性検証などでペア相関関数は利用される。
本講演では、この大前提の発想から始め、非定常ポアソン過程や定常ネイマン・スコット過程を紹介し、そのパラメータ推定法、シミュレーションによる人工データ生成法などを解説する。10年以上前から空間点過程の主な課題は非定常モデルに移行しているが、国内の点配置データ分析は、この流れから10年以上、取り残されている。さらに、その遅れすら認識されていない。
もっとも、空間点過程モデル自体は、この10年、古くから扱われているモデルの非定常化などが目立ち、自由な発想でモデルを作るという状況とほど遠い。点配置のシミュレーションは容易で自由にモデルを考案できる。しかし、ペア相関関数の理論値の導出などを伴わないシミュレーションモデルでは、生態学的にも価値を見いだせない。
本シンポジウム前半は、新しい空間点過程モデルの提唱とペア相関関数の(近似)導出、微分方程式に代表される数学とシミュレーションモデルのリンク、そして成果事例が紹介される。本講演では、これをひとつの契機に、自由な発想で空間点過程モデルを考案し、数理生態学とのリンクを広げるアイデア交換を始める。


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