| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S14-1  (Presentation in Symposium)

カルシウムシグナルを介した植物内・植物間情報伝達の可視化
Visualization of calcium-based intra- and inter-plant communication

*Masatsugu TOYOTA(Saitama University)

 細胞内のカルシウムイオンの濃度変化(カルシウムシグナル)は、動植物を問わず、多くの生物種においてセカンドメッセンジャーとして働いており、筋収縮や内分泌、神経伝達物質の放出などの様々な生理学的反応に利用されている。植物においても、カルシウムシグナルは多種多様な環境応答に関与しており、乾燥や低温、塩害、病害、虫害などのストレスの感知から応答を制御していると考えられている。我々は、独自に構築した広視野・高感度蛍光イメージングシステムを用いて、モデル植物であるシロイヌナズナが幼虫に捕食された時や、物理的に傷つけられた時に起こる長距離・高速カルシウムシグナルの可視化に成功した。非常に興味深いことに、この全身を駆け巡るカルシウムシグナルには、動植物に広く保存されているグルタミン酸受容体が必須であることがわかった。植物には神経細胞や侵害受容器は存在しないが、局所的な傷害ストレス情報を瞬時に全身に伝え、外敵からのさらなる攻撃に備えていると考えられる。
 ごく最近、我々はこのイメージングシステムを用いて、植物が傷つけられた時に放出する揮発性物質を受容した時に起こるカルシウムシグナルの可視化に成功した。古くから、植物は匂い物質を介して個体間で情報伝達をしていると考えられており、このカルシウムシグナルは、嗅覚をもたない植物の新しいコミュニケーションシステムを示唆しているかもしれない。本シンポジウムでは、「可視化」や「イメージング」を切り口にして、無神経な植物の新しい情報伝達システムについて紹介したい。


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