| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S15-3  (Presentation in Symposium)

シロアリのカースト分化に関わるゲノムインプリンティング
Mechanism of genomic imprinting underlying termite caste determination

*松浦健二(京都大学)
*Kenji MATSUURA(Kyoto Univ.)

アリ・ハチ、シロアリなど真社会性昆虫のコロニー内では、繁殖に特化した女王(シロアリでは王も)や専ら労働に従事するワーカーなど、繁殖を巡る分業が行われている。このようなカースト(社会役割)が何によって決定されているのかについては長い論争が続いており、社会性昆虫の研究の中心課題となっている。近年、カースト決定に親から子へ世代を超えて引き継がれる要因が関与しているという証拠がさまざまな社会性昆虫で知られるようになり、フェロモンや栄養条件など純粋に社会環境要因のみで制御されているという仮説には終止符が打たれた。しかし、多くの研究者による探索が行われてきたにもかかわらず、いかなる社会性昆虫においてもカースト決定遺伝子の特定には至っていない。これは、ヘリタブルな要因をDNA配列情報に限定して探索が行われてきたことが原因だと考えられる。我々は、シロアリの親の表現型依存的に子のカースト決定が変わる現象が、性拮抗的なゲノムインプリンティングによるものであることを明らかにした。そして、親の年齢(生成熟度合い)によっても、子のカースト決定が影響されることを明らかにし、配偶子DNAのメチル化が親の年齢依存的にドラスティックに変化することを明らかにした。さらに、性拮抗的なゲノムインプリンティングが、シロアリの真社会性の起源をもたらした不可欠な要因であったことを数理モデルによって示した。本講演では、世代を超えるエピジェネティックインヘリタンスの重要性を、現在の真社会性システムの制御機構と進化的な動力学の両方の視点から議論したい。


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