| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S26-4  (Presentation in Symposium)

都市緑地におけるデータと市民の関係構築の実践
Practice of building relationships between data and citizens in urban green spaces

*大庭義也(東邦レオ株式会社)
*Yoshiya OBA(Toho Leo Co., Ltd.)

気候変動や自然資源の損失など、これまでの短期的な経済合理性に基づく活動の結果、様々なリスクが顕在化しつつある。これに対し、持続可能な社会の構築による問題解決を目指して世界規模で多様な取り組みが行われている。グリーンインフラは、社会基盤に自然や生態系の力を取り入れて課題解決を目指すアプローチである。しかしながら、生態系や自然の機能は多様であり、必ずしも客観的な事実やデータで示されているとは限らない。
現在、東邦レオ株式会社はグリーンインフラの実装を事業のひとつとして取り組んでいる。先述のような背景から都市の緑の価値を定量化・可視化するツール「U-GREEN」を開発しサービス提供を開始した。U-GREENは学術的根拠に基づいて試算を行い、行政の政策や計画の根拠となるデータを提供することを使途として想定したツールだ。U-GREENの活用を進めるなかで、まだ「生態系や自然を利用したインフラ構築」に対する具体的な取り組みが少なく、学術的なデータの重要性やデータを活用するアイディアが一般に浸透していないことが課題として生じている。
一方、市民と連携したボトムアップ的な活動が立ち上がりつつあり、例えば身近な緑の可視化・定量化を通じて生態系や自然の価値を市民に発信する環境教育の取り組みが始まった。ボランティア活動や市民調査とデータ可視化を組み合わせることで、市民協働の体制をシステム化しながら、具体的な実装のアイディアを探ろうというものである。
今後、グリーンインフラのように生態系や自然の便益を実社会に実装することを考えたとき、具体的にどのような便益を想定し、そこに対する定量指標を定めることが必要になるだろう。また、それとあわせて具体的な実装内容とそれを持続的に運営するシステムが合わせて考えられなくてはならない。それには産官学と市民の連携が必須であり、失敗を許容しながら実装に取り組める関係性や環境を築くことが必要になっている。


日本生態学会