| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


自由集会 W03-1  (Workshop)

甲虫における「海流分散」の可能性〜海水耐性と遺伝的分化の関係から見えてきたこと〜
The possibility of “current dispersal" in beetles 〜 The evidence from the relationship between seawater tolerance and genetic differentiation〜

*上野弘人(九州大学), 東悠斗(九州大学), 北川耕咲(名古屋大学), 荒谷邦雄(九州大学), 松林圭(九州大学)
*Hiroto UENO(Kyushu Univ.), Yuto HIGASHI(Kyushu Univ.), Kosaku KITAGAWA(Nagoya Univ.), Kunio ARAYA(Kyushu Univ.), Kei W. MATSUBAYASHI(Kyushu Univ.)

海洋は多くの陸上動物の分散を妨げる障壁である。一方、陸上動物でも海を越えて生息範囲を拡大させる場合があり、海流分散はその一例である。島嶼や海洋島の多い地域では、他の分散方法に比べて海流分散の頻度が高いと考えられ、島嶼地域である日本の生物相の成立において重要となる。これまでの研究で、昆虫類においても海流分散が示唆されているが、実際の形質として、海が実際どれほどの障壁となっているのかという肝心な部分が調べられた研究は少ない。
本研究では、対馬海流に沿って広域分布する海浜性甲虫12種を対象に海水上での生存率(海水耐性)を測定し、その中で海水耐性が異なる5種に対して遺伝的距離と地理的距離の関係性(IBD)を算出した。
 海水耐性実験の結果からは、生存日数の中央値(50%死亡日数)にして、数日となる種から1ヵ月を超える種まで幅広いパターンが存在し、最大生存日数が3か月を超えた種も確認された。
 IBDの結果からは、海水耐性の低い種ほどIBDの相関係数の傾きが大きい傾向が見られた。この結果は、海水耐性が高くなるにつれて地理的集団間の移住の頻度が高くなる、つまり移動力が増すことを示唆しており、海水耐性が海浜性甲虫の移動分散能力の直接的な指標となる可能性を示した。


日本生態学会