| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


自由集会 W04-2  (Workshop)

植物バイオマスを構成する水素・酸素の起源としての葉面水分吸収
Foliar water uptake as a source of hydrogen and oxygen in plant biomass - insights gained from dual-isotope pulse labelling-

*香川聡(森林総合研究所)
*Akira KAGAWA(FFPRI)

植物が葉の表面から液体の水を吸収する現象(Foliar water uptake)についての研究報告例は、ここ数年で急速に増加している。本講演では、葉面から吸収される水と根から吸収される水を2つの異なる重水(HDO+D2O、H218O)で標識する新しいパルスラベリング法により得られた成果について報告する。
 年輪は古気候復元に用いられてきたが、湿潤な日本では特に年輪の酸素安定同位体比が古気候復元に有効であることが分かっている。世界の他の地域に比べ、日本の樹木年輪の個体差は非常に小さく、同一産地で採取した年輪の酸素・水素同位体比はより類似性の高い変動を示す。日本産年輪の酸素・水素同位体比の類似性が比較的高い理由として、梅雨期のある湿潤な日本では、葉面吸収された降水が多く木材形成に利用されるからでは?という仮説が考えられた。
 この仮説を確かめるため、スギの地上部と地下部を別々のチャンバーで覆い、葉面および根にそれぞれ重い酸素同位体を多く含む重水または重水素を含む重水を暴露し、樹体内への吸収・移動を調べる実験を行った。すると、葉内の水の約4割が葉面に暴露した重水に置き換えられ、葉面吸収された重水の一部は根まで逆流していた。また枝の木部の乾燥バイオマスおよびセルロースの同位体比を測定したところ、ラベリング後に形成された木材を構成する酸素・水素の約半分が葉面吸収水起源、残りの半分が根吸収水起源であることが分かった。
(参考文献)
・Kagawa A. (2020) Foliar water uptake as a source of hydrogen and oxygen in plant biomass. bioRxiv, https://doi.org/10.1101/2020.08.20.260372
・Kagawa A., Battipaglia G. (2021) Post-photosynthetic carbon, oxygen and hydrogen isotope signal transfer to tree rings – how timing of cell formations and turnover of stored carbohydrates affect intra-annual isotope variations, In Brooks, J.R. (eds.) Stable Isotopes in Tree Rings (in press).


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