| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


自由集会 W09-3  (Workshop)

植物のゲノムを長期間守るしくみ:DNA修復・エピジェネティック制御遺伝子数の進化
Long-term genome stability in plants: copy number variations of DNA repair genes and epigenetic regulation genes in plant species

*青柳優太, 楠見淳子, 佐竹暁子(九州大学)
*Yuta AOYAGI, Junko KUSUMI, Akiko SATAKE(kyushu Univ.)

樹木は寿命が長く数百年以上生きるものもいるが、どうして長生きできるのであろうか。長期間生存を維持するためには、DNA修復やエピジェネティックな制御により、様々な外的・内的ストレスによって生じるDNA損傷やDNAメチル化、クロマチン構造などの変化からゲノムやエピゲノムを守ることが重要である。樹木の長寿命維持に重要なDNA修復・エピジェネティック制御遺伝子の候補を見つけることができれば、樹木の長寿命維持の機構を理解する手がかりとなるだろう。 本研究では、多様な機能の創出の基盤となり得る遺伝子のコピー数の多さに着目し、植物のゲノムデータベースPLAZAを利用して樹木の種において多年草や一年草の種に比べてコピー数が多いDNA修復遺伝子・エピジェネティック制御遺伝子の探索を行った。
対象とした121種類のDNA修復遺伝子ファミリーのうち、POLY(ADP-RIBOSE) POLYMERASE (PARP)遺伝子ファミリーにおいて、樹木は一年草、多年草より有意にコピー数が多いことがわかった。PARPはDNA修復経路の活性化だけでなく、植物の防御や成長にも重要な役割を果たしていることが知られている。また、121種類のエピジェネティック制御遺伝子ファミリーのうち、BRUSHY 1 (BRU1)、SILENCING DEFECTIVE 3 (SDE3) 遺伝子ファミリーにおいて、樹木は一年草、多年草より有意にコピー数が多いことがわかった。BRU1はクロマチン構造制御を通して遺伝子発現制御やゲノムの安定性、分裂組織の維持に重要な役割を果たし、SDE3はRNAサイレンシングによるウイルスゲノムなどの増殖抑制において重要な役割を果たしていることがわかっている。樹木の種でコピー数が増加していたPARPやBRU1、SDE3はゲノムの安定性や持続的な成長、ウイルスに対する抵抗性などを通して樹木の長期生存に貢献していることが示唆される。


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