| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


自由集会 W15-1  (Workshop)

垂直伝播プロセスにおけるシロアリ腸内共生微生物群集の動態
Dynamics of symbiotic microbial community during vertical transmission process in termites

*稲垣辰哉(東京工業大学)
*Tatsuya INAGAKI(Tokyo Institute of Technology)

動植物と微生物の共生関係において、宿主と微生物が互いに強く依存しあう関係として絶対共生関係が知られている。そのなかでもヤマトシロアリは腸内の多様な原生生物と1億年以上前から絶対共生関係にあるとされており、それらの十数種におよぶ原生生物は木材の消化や窒素固定を担っている。共生原生生物群集の構成種はヤマトシロアリのどのコロニーにおいてもほぼ共通であり、安定してコロニー内や世代間で伝播されていると考えられている。原生生物はシロアリの腸以外では生息できないため、この群集を維持する上では次世代への伝搬プロセスが重要である。次世代を担う羽アリにおいて巣から飛び立つ際には腸内原生生物群集のボトルネックが強くかかると考えられるが、どのようにして原生生物群集が伝播されているのだろうか。本研究ではヤマトシロアリのニンフと呼ばれる個体が羽アリになり、巣を飛び立つまでの過程における腸内原生生物群集の動態及び形成プロセスを調べた。その結果、ニンフでは原生生物の個体数がワーカーよりも大きく減少していたが、羽アリへの脱皮の際には腸内の全ての種の原生生物が維持されていることが明らかになった。シロアリのワーカーにおいては、脱皮前に一度原生生物をすべて無くし、その後周囲のワーカーから原生生物を含んだ腸液を受け取ることが明らかになっているが、このプロセスとは大きく異なっていた。その後、羽アリは周囲のワーカーから原生生物を受け取ることなく巣から飛び立っていた。このことは、羽アリへの脱皮の際にのみ腸内に残ることがシロアリと腸内原生生物の絶対共生関係の維持に必須であることを示している。羽アリ腸内原生生物の総量はワーカーと比べて大きく減少していたものの、ワーカーでは希少な種の割合が増加していた。この組成の変化が群集の垂直伝播効率に与える影響についても議論したい。


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