| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


自由集会 W18-1  (Workshop)

定型的な「論文詩」の作成について
The creation of a standard “thesis poem"

*多田満(国立環境研究所)
*Mitsuru TADA(NIES)

 科学論文は重要な社会への発信方法ではあるが、文化として科学が広く受けとめられることを考えた時には、あまりにも限定された対象への特殊な形での発信と言わざるをえない。また科学論文は、「こころの外側」にある情報と意見とを伝達することが目的であって、その他の「心情的要素」を含んではならないとされる。しかしながら、科学にも人間が行なうこととして多分に心情的なものの存在が認められる。すなわち、自然現象を不思議と思い、その解明を志す基礎科学研究の発想(ときめき)には、かなり詩的な心情が力になっている。たとえば、「こころの内側」で人生を不可思議と感じ、美に憧れる心情と、自然現象の謎を解いてみたいと思う探求心とは、どこかで繋がっている。
 そこで、調査や実験、理論のデータから導かれる事実を論拠とする「経験的な論理」による論文(IMRaD)の科学的な論述性(科学性)と、研究(調査や実験、理論)の日常体験に基づく直感や信念、価値観、イメージ、感情、感覚、欲求、願望などを論拠とする「個人的な論理」による心情的な物語性(人間性)から定型的な「論文詩」の作成手順を提案する。具体的には、科学論文の緒言(I)から考察(D)にいたる一連のつながりを論述性と物語性から表現し、詩情性(比喩や韻律、対句、省略など)を加味して完成させる。生態学分野の専門家(研究者)は、生物多様性や外来種、あるいは生態リスクなど地域の環境問題にかかわることから、野外調査をはじめとする研究を円滑に実施するためにも市民との科学コミュニケーションが求められている。このような生態学に関連する論文の内容をもとに表現した詩は、ネイチャーライティング(自然文学)の新たな詩のジャンルの創造につながるものであり、社会で共有される詩は、市民の科学リテラシーを形成、ならびに向上させる一助(科学コミュニケーションツール)となるものと考えられる。


日本生態学会