| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) C01-02  (Oral presentation)

協働して侵入する2種(2エージェント)の進行波速度【B】
Speed of advance of co-invading two interacting species or agents【B】

*佐々木顕(総合研究大学院大学)
*Akira SASAKI(The Grad Univ Advanced Studies)

生物種が新しい空間に増殖と移動分散で広がるプロセスは、生物の増殖を記述する個体群動態項に、個体のランダムな移動分散を記述する拡散項を加えた反応拡散方程式の進行波として定式化され、外来種の侵入の解析などに適用されてきた。また、病原体が抗原性を変異させて宿主免疫から逃げ続ける抗原連続変異の逃走・追跡劇の進化プロセスも、形質空間上の突然変異を拡散項とする反応拡散方程式で定式化でき、抗原性と毒性の共進化などの理論的な解明に役立ってきた(Sasaki et al. Nat Evol Evol 2022)。
 ここでは、この反応拡散系の進行波速度の理論を、伝播するエージェントが複数のクラスを行き来しながら広がる場合に拡張する。例えば、昆虫媒介の病原体が、宿主と媒介昆虫の間を行き来しながら空間的伝播するプロセスや、がん細胞とがん幹細胞という増殖率や免疫・投薬への感受性の大きく異なる2つのクラス間を行き来する「がんの免疫逃避」のプロセスを予測する理論を構築する。具体的にはこれら協働する複数のエージェントが物理空間や形質空間に広がるプロセスを反応拡散系の進行波として解析する。
 進行波の先端での線形化解析により、2つのクラスの間を遷移しつつ協働的に広がるエージェントの進行波速度は、クラス内での増殖に関するパラメータの対称部分と反対称部分, クラス間遷移率の積、そして(空間上の移動分散や形質空間上のランダムな突然変異に関する)拡散係数 を用いた簡単な公式で表されることを示す。また、線形化解析が破綻し、非線形相互作用がスピードを決める系や、進行波が不安定化する条件なども論じる。
 この理論を、新型コロナウイルスの変異株が通常の宿主と免疫不全の宿主を渡り歩きながら進化するモデル(Kumata & Sasaki, Proc R Soc B, 2022)や、上述の昆虫媒介伝染病病原体の空間伝播の速度、ハプロ相とディプロ相の間を行き来しながら増殖する藻類・コケ類の空間伝播や形質進化にも適用した結果についても論じる。


日本生態学会