| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) C02-07  (Oral presentation)

山口県中部におけるヌートリアの蓄積脂肪間の関係および妊娠に与える影響について
Relationships among stored fat in nutria and their effects on reproduction in Yamaguchi

*飯田悠太(山口大学), 大森鑑能(岐阜大学), 細井栄嗣(山口大学)
*Yuta IIDA(Yamaguchi Univ.), Akitaka OMORI(Gifu Univ.), Eiji HOSOI(Yamaguchi Univ.)

ヌートリア(Myocastor coypus)のメスは6カ月齢から発情し妊娠可能である。妊娠期間約130日を経て、平均5頭の子を出産する。本来の生息地である南米では、ヌートリアは冬季に妊娠率が低下する(Gosling,1981)。妊娠率にはメスの栄養状態が影響する(Gosling,1981)。ヌートリアの栄養状態を評価する指標には、鼠径部脂肪(Inguinal Fat : IF)や脇下脂肪(Axillary Fat : AF)が用いられる(Gosling, 1981)。日本ではヌートリアの栄養状態に関する報告が少なく、妊娠率への影響も不明である。そのため、本研究では山口県で捕獲されたヌートリアの栄養状態及びその妊娠率への影響を明らかにすることを目的とした。
捕獲したヌートリアは歯の萌出交換から齢査定を行い、妊娠可能なclass 3と4のメスを対象に、子宮を切除し、妊娠の有無及び胎児数を測定した。IFとAFは体サイズの影響を考慮するため、それぞれ後足長の3乗で按分した。さらに、貧栄養状態の指標として様々な野生動物で用いられる大腿骨骨髄内脂肪(FMFI)も測定し、各指標間の関係を明らかにしたうえで、妊娠率への影響を分析した。
IF、AF、FMFIについて季節変化は見られなかった。また、IFとAFはともに相互に相関していた。そのため、IFとAFには、明確な蓄積・動員順序はないと思われる。FMFIに関しては、季節変動がなく、その数値も他種と比較して著しく低いため、ヌートリアの栄養状態評価には適さないと考えられる。妊娠が確認できた個体と確認できなかった個体では、妊娠していた個体の方が、IF量は有意に多かった(P<0.05)。妊娠率についても、年間を通して大きな変動は見られなかったことから、山口個体群は原産地の個体群よりも食物資源が豊富で個体の栄養状態が常に良好な状態で維持され、年間を通して繁殖可能であることが示唆された。こうしたヌートリアの栄養状態や繁殖状況を踏まえ、個体群管理のためには、メスの選択的な捕獲が有効だと考えられる。


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