| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-01  (Oral presentation)

野生集団における非自己認識型自家不和合性の進化動態解明に向けて
Evolutionary dynamics of a non-self recognition-based self-incompatibility system in wild populations

*土松隆志(東京大学), 礒野一帆(東京大学), 前之園大雅(東京大学, 千葉大学), 黒沼尊紀(千葉大学), 畑井美穂(東京大学), 久保健一(長浜バイオ大学), 渡辺均(千葉大学), 上原浩一(千葉大学)
*Takashi TSUCHIMATSU(Univ. Tokyo), Kazuho ISONO(Univ. Tokyo), Taiga MAENOSONO(Univ. Tokyo, Chiba Univ.), Takanori KURONUMA(Chiba Univ.), Miho HATAI(Univ. Tokyo), Ken-ichi KUBO(Nagahama Inst. Bio-Sci. Tech.), Hitoshi WATANABE(Chiba Univ.), Koichi UEHARA(Chiba Univ.)

被子植物において自殖を防ぐ遺伝的機構のひとつに自家不和合性が知られている。一般に、自家不和合性はS 遺伝子座上に分離する多数の S 対立遺伝子により規定され、S 遺伝子座には雌側因子と雄側因子が連鎖して座乗している。ナス科やミカン科などで近年明らかになってきた非自己認識型と呼ばれる自家不和合性では、雌側因子はS-RNaseと呼ばれるリボヌクレアーゼであり、自家花粉由来の花粉管の伸⻑を阻害する「細胞毒」として働く。一方、雄性因子は非自己のS-RNaseを特異的に認識して分解するSLFと呼ばれる分子であり、いわば「解毒剤」である。非自己認識型自家不和合性の基本メカニズムが明らかになったことで、このシステムが自然界でどのように成り立ち、多数の S 対立遺伝子がどのように起源し維持されるのか、といったその進化動態が近年注目を集めている。しかしながら、これまでの研究は限られた栽培系統などでの研究が多く、野生集団での実態は不明な点が多い。そこで私達は、ナス科ペチュニア属の多数の野生個体を対象に、まずRNA-seqによるS-RNaseおよびSLFの網羅的同定手法の確立を行い、このシステムの野外における実態把握を進めている。本発表では、S 対立遺伝子の分布と多様性、SLFのレパートリーの変異とその進化過程について主に紹介し、新しいS 対立遺伝子の進化や、このシステムが生殖隔離に与えうる影響など、非自己認識型自家不和合性の生態・進化的な重要性を議論したい。


日本生態学会