| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-005  (Poster presentation)

シカのヌタ場が両生類の繁殖に与える影響【A】【B】
The effect of deer wallow on amphibian reproduction【A】【B】

*松浦なる(北大・農), 岡宮久規(ふじのくに環境史博), 八柳哲(北大・農), 坂田雅之(北大・農), 岸田治(北大・FSC), 荒木仁志(北大・農)
*Naru MATSUURA(Hokkaido Univ.), Hisanori OKAMIYA(Shizuoka Natural History Mus.), Tetsu YATSUYANAGI(Hokkaido Univ.), Masayuki SAKATA(Hokkaido Univ.), Osamu KISHIDA(Hokkaido Univ. FSC), Hitoshi ARAKI(Hokkaido Univ.)

生態系エンジニアのなかには、生態系の物理構造を改変することで他生物の生息場所を新たに作るものがいる。エンジニアリングにより生まれた新たな生息場所が、通常の生息場所と比べて、他種の生存や成長に好適か不適かを知ることは、エンジニアリングの生態学的、進化学的な帰結について洞察を与える。大型哺乳類はしばしば生態系エンジニアとして他種の生息場所を創出するが、そこが生存や成長に適しているかを検討した研究はほとんどない。シカは繁殖期にオスが泥浴び場としてヌタ場を作る。ヌタ場には水がたまり、翌春まで維持されるため、本来自然の水場で繁殖する両生類にとっての代替繁殖場所となる。本研究では、シカのヌタ場が両生類の水生生活期の生息適地であるかを評価することを目的とした。そこで北海道のエゾシカと在来の両生類であるエゾアカガエルとエゾサンショウウオに注目し、同一河川内の氾濫原に形成されるエゾシカのヌタ場と自然の水場(以降、池)における両生類2種の卵や幼生の生存や成長を比較した。その結果、エゾアカガエルにおいては孵化から幼生までの生存率はヌタ場の方が池よりも約3倍高かった。しかし、ヌタ場のエゾアカガエルは池の個体よりも変態時の体サイズが13%ほど小さく、上陸までの日数も10日ほど長かった。つまり、ヌタ場は本種の生存には好適だが、成長には好適でなかったと言える。一方、エゾサンショウウオ幼生のヌタ場の生存率は池の約25%に過ぎず、多くのヌタ場で上陸前に殆どの個体が死亡した。本研究の結果から、シカのヌタ場は両生類の繁殖場所となるにもかかわらず、必ずしも好適な生息場所でないことが示唆された。今後、シカの増加とともにヌタ場が増え、両生類の繁殖場所が増えたとしても、両生類の個体群サイズを増加させることには繋がらないかもしれない。


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