| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-008  (Poster presentation)

千葉県周辺におけるエナガ(Aegithalos caudatus)の頭部白化個体群の分布について【A】
The distribution of white-headed populations of long-tailed tit (Aegithalos caudatus) around Chiba Prefecture【A】

*昆泰要(横浜国立大学)
*TAIYO KON(Yokohama National University)

エナガAegithalos caudatusはスズメ目エナガ科の森林性の鳥類であり、本州には眉斑の色が濃い亜種trivirgatus(以後通常エナガ)のみが生息している。また近年は、これまで記録の無かった都市部にも進出し、繁殖も確認されるようになった(川内 2021)。一方で、千葉県北西部を中心に眉斑の色が薄い個体群、通称チバエナガが生息することも知られている。これまでチバエナガに関する本格的な調査が行われたことはなく、学名も付けられていない(柴田 2019)。本研究では、関東におけるエナガの眉斑状態を記録し、チバエナガの分布実態を報告したうえで、エナガ種内変異の地理分布形成過程をあつかうモデルを作成して尤度による仮説の検証を試みた。チバエナガはこれまで分布の中心だと考えられていた千葉県北西部に限らず、千葉県全域とその周辺で生息が確認された。また、チバエナガの分布域全体にわたってほとんど眉斑が消失した個体から、通常エナガとさほど変わらない個体まで混在した。さらに、チバエナガの分布域と縄文海進時の地形に関連性があることが示唆された。縄文海進時には、千葉県は本州から孤立して島になっており、かつてこの島であった地域にチバエナガのほとんど分布していた。さらに、縄文海進後のエナガの地理分布動態をシミュレーションした結果、エナガは市街地、森林をほぼ同速度で移動でき,水田、荒れ地、水域は移動できないと仮定すると現在のチバエナガの分布を説明することができた。 つまり、縄文海進時に本州から隔絶されて島となっていた千葉県に生息していたエナガ個体群が眉斑の薄い特性を獲得したものがチバエナガである可能性がある。再び千葉が本州と陸続きになった後も、アシ原などが、生息や移動を制限する役割を果たしており、通常エナガとチバエナガが容易にお互いの生息域を行き来することができなかった。2010年以降のエナガの都市進出において、チバエナガと通常エナガの両者が東京や埼玉県東部に同時に侵入した。


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