| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-009  (Poster presentation)

特性の異なる産業酵母の共培養と増殖能の非相加的変化【A】
Non-additive effects of co-cultivation of different ecotypes on population growth in Saccharomyces cerevisiae【A】

*冨山絵(千葉大・理), 村上正志(千葉大・院・理), 高橋佑磨(千葉大・院・理)
*Kai TOMIYAMA(Fac. Sci., Chiba Univ.), Masashi MURAKAMI(Grad. Sci., Chiba Univ.), Yuma TAKAHASHI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

家畜や作物は、人為選択のなかで形作られたものである。品質や生産性の向上を目指した選抜の結果、これらの資源は各産物に対して特殊化し、画一化されてきた。産業酵母も例外でなく、食品や酒類の醸造の際には、単一の株が用いられるのがふつうである。一方で、生態学においては、種や遺伝子の多様性が集団の生産性や安定性を変化させること(多様性効果)が知られている。酵母においてもこうした効果が存在する場合、産業への応用が期待できる。しかし、多様性効果の出現メカニズムや出現条件については理解が十分に進んでいない。そこで本研究では、4種類のエコタイプ(パン酵母とビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母)を含む出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)の複数の株を用いた共培養により、増殖パターンに対する多様性効果を定量するとともに、そのような効果を生み出す組み合わせ条件を探索した。各株の単独培養と、総当たりでの2株の共培養を48時間おこない、各経過時間における個体数を推定した。これらのデータから、環境収容力(K)と最大増殖速度(rmax)、個体数が環境収容力の50%に達するまでの時間(T50)を推定した。共培養の各組み合わせにおける多様性効果は「共培養時の各パラメータの実測値」と「混合した2株の単独培養時の各パラメータの平均値(予測値)」の差として算出された。増殖パターンはいずれの株や組み合わせでも類似していたものの、多くの混合集団でrmaxに関して正の多様性効果がみられた。異なるエコタイプの株を混合した場合に、強い多様性効果が生じやすかった。さらに、混合した株間の表現型距離と多様性効果の関係を解析したところ、T50の異なる株を組み合わせた場合ほどrmaxに対する多様性効果が正に増大することが認められた。これらの結果は、より表現型の異なる株の共培養が多様性効果を増大させることを示唆している。


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