| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-018  (Poster presentation)

縄文時代と現在のシカにおける形態的・生態的特徴の比較【A】
A morphological and ecological comparison of sika deer between the Jomon period and the present【A】

*鬼崎華(日本大学大学院), 江口誠一(日本大学)
*Hana ONIZAKI(Nihon Univ. Graduate School), Sei-ichi EGUCHI(Nihon Univ.)

 過去の動物における個体あるいは集団の特徴を明らかにするためには,遺跡などから検出される,骨や歯といった限られた試料から情報を得る必要がある。ニホンジカCervus nippon(以下,シカと記載する)では,下顎骨と四肢骨に成長段階や体サイズが反映されることを利用した形態学的な手法が,現生標本を用いて検討されてきた。シカは縄文時代における主要な狩猟対象であったことから,千葉県内では貝塚を中心にいくつかの地点で多数の骨・歯が確認されている。本発表では,その中でも東金市・大網白里市養安寺遺跡に着目して,過去の研究で報告された年齢構成や雌雄比の推定法を用いて,肉眼観察と計測による形態分析を試みた。
 現生のデータと比較すると,下顎骨・四肢骨ともにより高い計測値を示したことから,これまでも縄文時代のシカにおいて指摘されてきた通り,本遺跡のものは現在よりも体格が大型であったといえる。下顎骨の計測結果からは,現生と似た分布の傾向が得られた。これと,歯の生えかわり状態を表す萌出段階の対応によって年齢構成比が推定され,幼・若獣と成獣でおおよそ1:1であった。成長に応じて変化する骨端部における癒合状況の観察では,相対的に若い個体にあたる試料が散見され,前肢と後肢では異なる傾向がみられた。また,既往研究で指摘された部位のうち,本研究では肩甲骨の計測値を用いた雌雄比推定の可能性が示唆された。比較的残存しやすく,計測のうえで誤差が少ない点においても,形態分析に有効であるといえる。各部位でみられた相違は,狩猟活動や資源利用などの人為的な影響が要因の一つとして考えられるものの,このようにまとまった量の試料を用いることで,集団としての形態的・生態的特徴をとらえ,個体の情報をある程度復元できることが示された。


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