| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-019  (Poster presentation)

水生昆虫の空間分布を左右する微生息場景観と個体の移動【A】
Microhabitat landscape and individual movement shaping the distribution of an aquatic insect in a stream reach【A】

*山﨑駿, 加賀谷隆(東京大学)
*Shun YAMASAKI, Takashi KAGAYA(The University of Tokyo)

 パッチ状環境における動物の空間分布は,パッチ自体の適合性に加え,個体のパッチ間移動を介して周辺パッチの質的構成と空間配置にも左右されうる。このようなパッチ景観効果を示唆する事例は陸上生態系で多数報告されており,パッチの生息密度と周辺パッチからの個体の移動可能性を示す連結性指標との間には,多くの研究で正の相関が示されている。しかしながら,パッチの連結性と生息密度の関係は個体の移動を介さない場合にも生じうるため,パッチ景観効果を正しく理解するには,連結性による評価と個体の移動パターンを照合させることが重要である。ナベブタムシは河川に生息する水生昆虫であり,千葉県の養老川個体群では岩盤上にパッチ状に堆積した砂礫に生息が局限される。本研究は,この個体群について,パッチ間分布に対する連結性の効果を明らかにし,その効果と個体の移動パターンからパッチ景観効果を検討することを目的とする。
 調査区間には137個の砂礫パッチが存在し,これらのパッチにおいて物理環境の測定とナベブタムシの採集調査を行った。各パッチの生息密度を,各パッチの物理環境のみから説明するモデルと,周辺パッチの連結性指標を説明変数に加えたモデルを構築し比較した結果,後者のほうが予測力は高かった。連結性の効果は,連結性が中程度で正となるが高いと負となる一山型を示した。連結性の効果を示す周辺パッチは数 m以内のもので,上流側のパッチの寄与は下流側のそれの4倍であった。個体の移動を明らかにするために4日間の標識再捕獲を行なった結果,ナベブタムシは高頻度でパッチ間を移動し,その大半は10 m未満で,そのうち79%は下流側への移動であった。したがって,ナベブタムシのパッチ間分布には,個体の移動で生じるパッチ景観効果が作用することが明確に示された。また,高密度に分布するパッチ間を高頻度で移動する動物では,連結性の効果に負の側面があることが示唆された。


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