| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-028  (Poster presentation)

ヨモギに形成される虫こぶから広がる多様性の高い寄生蜂群集【A】
Diverse parasitoid wasp community of Cecidomyiidae galls induced on Japanese mugwort (Artemisia princeps)【A】

*杉山瑞, 池田紘士(弘前大学)
*Mizuki SUGIYAMA, Hiroshi IKEDA(Hirosaki Univ.)

虫こぶ形成者の多様性は非常に高く、近縁な種間でも寄生する植物部位が異なる場合も多いため、1種の植物に複数の近縁種の虫こぶが共存することも多い。そして、1種の虫こぶに寄生する寄生蜂も複数種存在するが、実際にどの虫こぶにどの寄生蜂が寄生するか、1種の虫こぶに対して何種の寄生蜂が寄生するかはほとんどわかっていない。ヨモギに虫こぶを形成するヨモギタマバエ属は、虫こぶの形成部位や形態の異なる複数の近縁種が同所的に共存する。そのためヨモギ1種にヨモギタマバエ属の複数種が虫こぶを形成し、さらにそれぞれの虫こぶに複数種の寄生蜂が寄生することで多様な寄生蜂によって群集が形成され、種数において逆ピラミッド型の食物網を形成することが予想される。
本研究では青森県内5地点で調査を行い、ヨモギタマバエ属5種から199個体の寄生蜂を採集した。得られた寄生蜂について系統解析による種分類を行った結果、寄生蜂は3科23種であった。これらの寄生蜂の生態の違いと寄生する虫こぶの関係を調べた結果、卵や初齢幼虫に内部寄生する早期攻撃性のヒメコバチ科とハラビロクロバチ科はスペシャリスト的で、芽に形成される虫こぶに多く寄生していた。一方で成長した幼虫や蛹に外部寄生する晩期攻撃性のオナガコバチ科はジェネラリスト的で、葉や茎に形成される虫こぶに多く寄生していた。スペシャリスト的な種は宿主の生活史に同期し、芽に形成される虫こぶの壁が薄い時期に寄生が可能だと考えられる。それに対して、ジェネラリスト的な種は虫こぶが成熟した後に寄生するため、虫こぶの壁を突破しやすい葉や茎に形成される虫こぶに寄生すると考えられる。以上のことから、ヨモギに寄生するヨモギタマバエ属に寄生する寄生蜂群集は、種によって異なった植物部位に形成される虫こぶに寄生することで多様性が高くなり、種数において逆ピラミッド型の食物網構造を形成していることが分かった。


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