| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-032  (Poster presentation)

両側回遊生物による海洋資源輸送機能の種内・種間変異【A】
Intra- and inter-species variations in the marine -derived resource transfer mediated by amphidromous organisms【A】

*田中良輔(京都大学), 陀安一郎(総合地球環境学研究所), 平嶋健太郎(和歌山県立自然博物館), 由水千景(総合地球環境学研究所), 太田民久(富山大学), 國島大河(和歌山県立自然博物館), 宇野裕美(北海道大学), 佐藤拓哉(京都大学)
*Ryosuke TANAKA(Kyoto Univ.), Ichiro TAYASU(RIHN), Kentaro HIRASHIMA(WMNH), Chikage YOSHIMIZU(RIHN), Tamihisa OHTA(Univ. of Toyama), Taiga KUNISHIMA(WMNH), Hiromi UNO(Hokkaido Univ.), Takuya SATO(Kyoto Univ.)

高緯度地域では、遡河回遊を行うサケ科魚類が海から川への産卵遡上に伴い、海洋の栄養塩類等を河川に輸送することは広く知られている。一方、低中緯度の河川では多様な両側回遊性生物が海洋資源輸送を担っている可能性があるが、その実態や種多様性の効果はほとんど検証されていない。両側回遊性生物は遡上に伴い河川内で成長するため、体を構成する元素が海洋から河川由来に置き換わり、海洋資源輸送機能は徐々に減衰するはずである。また、この減衰過程には、生活史変異等に起因した種間・種内変異があると予想される。

本研究では、陸域と海洋で値が大きく異なるため、生態系間の資源輸送を評価できる硫黄安定同位体比(δ34S)分析により、両側回遊性生物が1)遡上直後に、どの程度海の値に近いδ34Sを示すか、2)δ34Sは成長に伴って減衰するか、3)それらに種間・種内変異があるかを明らかにした。

和歌山県の4河川と岐阜県の長良川で調査した結果、河口から5km以内で捕獲された両側回遊生物9種の遡上個体の平均δ34Sは8.55±4.70‰で、純淡水域の平均値(−1.70±1.51‰)と海水の値(21.0‰)の中間程度の値を有していた。両側回遊性生物の種間では、クロヨシノボリ4.92±5.11 ‰からアユ19.27±0.12 ‰まで大きな種間変異を有していた。和歌山県3河川(河口から10km以内)のヨシノボリ属3種(標準体長:12.73ー23.46mm)や長良川(河口から40km)のアユ(29.22―59.63mm)では、体長が大きい個体ほどδ34Sが低い傾向があった。また、ヨシノボリ属では体長と日齢に正の相関がみられた。一方、長良川のシマヨシノボリのδ34Sは体長に関わらず純淡水魚カワヨシノボリの値に近く、上流への海洋資源輸送機能が限定的であることが示唆された。

本研究を基礎として、両側回遊性生物が種ごとにいつ、河川のどこまで遡上するかを定量することで、海洋資源輸送機能における種多様性の効果を理解できるはずである。


日本生態学会