| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-036  (Poster presentation)

立山連峰高山帯の雪渓上に見られる節足動物群集の季節動態【A】
Seasonal dynamics of arthropod communities found on snow patch in alpine life zone in Tateyama Mountains【A】

*峯村友都, 和田直也(富山大学)
*Yuto MINEMURA, Naoya WADA(Univ. Toyama)

 生態系を跨ぐ資源移動は受け手の環境に大きな影響をもたらし、特に資源の発生時期や発生量の季節推移には、資源利用者の行動や密度との間に密接な関係がみられる。高山生態系における資源補償には、春期に雪渓上にみられる節足動物が挙げられ、そのような節足動物は高山帯で繁殖を行う鳥類の餌資源として重要な役割を果たすことが報告されている。しかし、その時間的特徴や種類、量、起源といった基礎的な情報はほとんど知られていない。そこで本研究では、雪渓上にみられる節足動物の生態学的意義を明らかにするために、節足動物の捕食者とされるライチョウ(Lagopus muta japonica Clark)との関連から、3つの仮説「雪渓上の節足動物相は高山性鳥類の生活史フェノロジーを支えるような時間的特徴を持つのではないか」「鳥類の餌要求度の高い時期における節足動物相は、鳥類にとって採餌効率の高い形質を持つ節足動物で特徴付けられるのではないか」「雪渓上の節足動物相の発生起源は高山帯より低い標高帯ではないか」を高山帯で検証した。本研究では2021年と2022年のそれぞれ5月から8月に定期的な方形区調査を実施した。主構成種は形態的及び遺伝的情報による分類を実施し、節足動物の発生起源の推定には、87Sr/86Srを用いた解析を行った。さらに、ライチョウの糞便の遺伝子解析により、餌内容の季節変化を評価した。その結果、雪渓上の節足動物の密度とバイオマスは、ライチョウの産卵期に一致するように最大となり、いずれのピークも山地帯で発生したと思われる小さな半翅目昆虫によって特徴付けられることが明らかとなった。さらに、抱卵糞からは雪渓上でみられる節足動物の遺伝子断片が確認されたことから、雌のライチョウによる雪渓上での採餌が確認された。これらの結果は、雪渓上における節足動物を介した資源補償の存在を支持するものであるが、高山生態系の群集構造の維持にどの程度貢献しているのか、今後、定量的に評価する必要がある。


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