| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-043  (Poster presentation)

琵琶湖流入河川にて採取した動物試料と礫試料における種レベルでの珪藻群集解析【A】
Diatom community analysis at the species level in animal and gravel samples collected from the inflow streams of Lake Biwa【A】

*泉野央樹(滋賀県立大学)
*Hiroki Izumino hiroki IZUMINO(The Univ. of Shiga Prefecture)

 珪藻は,ケイ酸質から成る「被殻」を身にまとった単細胞性の藻類である.付着性の珪藻は水中の植物や礫など,あらゆる基質に付着している.過去の研究では,珪藻群集の空間的・季節的変動は,付着力や増殖特性の違い,環境攪乱によってもたらされると考察された.珪藻が付着する基質の中でも,動物体表は他に比べて特異な環境である.例えば半水生の動物の場合,遊泳の際の水流や,陸上での活動時の乾燥が予想される.したがって,動物体表ではこれら攪乱への耐性が強い珪藻が生き残ると考えられる.本研究では,滋賀県米原市天野川にて採取した礫とカメ甲羅上に付着している珪藻群集について種レベルでの群集解析を行った.
 2020年夏期・冬期及び2021年夏期に採取したカメ試料(イシガメ26個体,ミシシッピアカミミガメ2個体)及び礫試料(10個)の珪藻群集についてそれぞれ400殻計数した.2020年冬期及び2021年の夏期試料において,礫とカメの珪藻群集に明確な違いが見られた.クラスター分析により礫とカメの珪藻群集はそれぞれ別のクラスターに振り分けられた.指標種分析により礫ではAchnanthidium属が指標種として抽出された.カメでは複数の種が指標種として抽出された.Achnanthidium属は小型で付着力の強い属であり,このような特徴を持つ種が礫上にて優占することは大塚(1998)でも述べられていた.カメ試料で指標種として抽出された複数の種について,運動性・群集形成の有無・水質選好性の3つの特徴に偏りは見られなかった.冬期試料では礫・カメ問わず付着力の弱いNavicula属が優占しており,付着力の強弱がカメ甲羅上での優占種の選択に影響しないことが示唆された.本研究により礫とカメ甲羅上の珪藻群集に差異があり,それは夏期により明確に現れることが明らかになった.カメは移動する珪藻の基質である.カメ甲羅上に付着する珪藻種の特徴を明らかにすることは,今後問題となりうる珪藻外来種の分布拡大を未然に防ぐ上でも非常に重要である.


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