| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-049  (Poster presentation)

捕食者が植物上に残す痕跡がナミハダニの分布を変化させる【A】【B】【E】
Cues of predators on host plants affect the distribution of herbivorous mites.【A】【B】【E】

*吉田達也, 長泰行(千葉大院園芸学研究科)
*Tatsuya YOSHIDA, Yasuyuki CHOH(Chiba Univ. Grad. Sch. Hort.)

被食者は捕食者と遭遇しない場合でも、捕食リスクに対しその形態、行動、生理、生活史を変化させ、捕食を回避する。例えば、多くの被食者種は捕食者の痕跡が残る場所を避けて分布することが知られている。一方、動物の分布は生息場所の餌や構造などの影響を受けることから、捕食者の痕跡も空間的に不均一に存在すると考えられる。このような、生息場所の不均質性が捕食者の痕跡を介し被食者の分布に及ぼす影響を明らかにすることは、被食者と捕食者の共存や個体群動態を理解するために重要となると考えられる。本研究では、植食性被食者にナミハダニ(以下ハダニ)、捕食者にチリカブリダニ(以下チリ)、植物として葉面にトライコームを備えるインゲンを用い、植物のチリへの曝露が植物上におけるハダニの分布に及ぼす影響を調査した。チリはトライコームをもつ葉を好むこと、ハダニはトライコームをもつ葉を好む場合と避ける場合があることが先行研究から示唆されている。
チリ雌成虫を初生葉と本葉が展開したインゲン株に導入し、24時間後、その位置を調査し除去した。インゲンのトライコーム密度は、初生葉より本葉で、表面より裏面で高く、チリと卵はトライコームの多い場所に多く存在した。次に、ハダニ雌成虫を同じ株あるいはチリを接種しなかった株に接種し、20時間後、その位置と卵を調べた。ハダニ雌成虫と卵は、チリの曝露によらず、本葉より初生葉で多く、チリ非曝露株の初生葉では葉裏に多く、チリ曝露株でも同じ傾向であったが、葉裏への偏りが減少した。一方、本葉のハダニは、チリの曝露によらず、その両面に等しく分布した。本発表では、ハダニがその分布の変化にチリのどのような痕跡をキューとして用いたかを調査した実験と併せ、植物上におけるトライコームの不均質性が捕食者の痕跡を介し被食者の植物上の空間分布を変化させることが、両者の共存と個体群動態に及ぼす影響を考察する。


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