| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-054  (Poster presentation)

琵琶湖固有種ニゴロブナによる母田回帰のメカニズム「嗅覚記憶」の実験的検証【A】
Behavioral mechanism for natal homing by Carassius auratus grandoculis endemic to Lake Biwa: Testing olfactory imprinting and navigation hypotheses【A】

*北田順也(神戸大学), 長野健生(滋賀県立大学), 光田和季(滋賀県立大学), 大久保卓也(滋賀県立大学), 礒田能年(滋賀県水産試験場), 奥田昇(神戸大学, 地球研)
*Junya KITADA(Kobe Univ.), Kenki NAGANO(Univ. Shiga Pref.), Kazuki MITSUDA(Univ. Shiga Pref.), Takuya OKUBO(Univ. Shiga Pref.), Takane ISODA(Shiga Pref. Fish. Exp. Station), Noboru OKUDA(Kobe Univ., RIHN)

サケ科魚類の母川回帰メカニズムとして階層的ナビゲーション仮説(外洋から母川へと産卵遡上する際、異なる空間スケールで複数の環境情報を手がかりに用いる)が提唱されている。母川回帰には、河川生育期に経験した匂いが刷り込まれ、性成熟後、その匂いに想起されて出生河川に誘引される嗅覚記憶が重要と考えられている。
 琵琶湖固有種ニゴロブナは、氾濫原で産卵・生育後、琵琶湖沖合で索餌回遊する。演者らは、先行研究により、沖合を数年間回遊した親魚が出生水田へ回帰することを報告した。本研究では、その母田回帰メカニズムとして階層的ナビゲーション仮説を検証するために、行動学的実験を試みた。本種種苗を孵化直後に水田に放流し、1ヶ月間の生育後、屋外大型水槽で湖水により3年間飼育することでその回遊生活を再現した。仮説に基づき、ニゴロブナは沖合から母田に回帰するために複数の手がかりを用いるとの予測を立て、二択水路を用いた選択実験を企画した。成熟個体を二択水路に入れ、上流から異なる匂い源を同時に流して無人カメラにより行動観察した。匂い源として、1)出生水田土壌vs湖水、2)非出生水田土壌vs湖水、3)出生vs非出生水田土壌、4)同種vs近縁異種の飼育水、5)同胞vs同種異胞個体の飼育水を流し、各水路内での滞在時間を記録した。
 実験の結果、本魚は出生・非出生に関わらず水田土壌水を好むが、出生水田に強い選好性を示した。また、近縁異種より同種、同種異胞より同胞個体の飼育水を有意に選好した。また、母田回帰の手がかりには階層性が認められた。本種の生態的知見を踏まえると、繁殖期間に発生する水田濁水で接岸回遊し、繁殖相手となる同種個体、さらには、出生水田の手がかりとなる同胞や水田土壌の匂いを手がかりに回帰する可能性が示唆された。本種の母田回帰は、出生水田というピンポイントな生息地を長期間記憶するという点で驚くべき能力である。


日本生態学会