| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-063  (Poster presentation)

ニホンザルにみられた逃走開始距離の個体差:性と母性の個性表現型への影響【A】
Individual differences in the flight initation distances of Japanese macaques: effects of sex and maternity on personality expression【A】

*三谷友翼, 大井徹(石川県立大学大学院)
*Yusuke MITANI, Toru OI(Isikawa Prefectural Univ.)

 ヒト以外の動物にも個性の存在が認められている。この個性は、同種であっても性別やライフステージによって変化するとともに表現型が異なる場合がある。本研究では、ニホンザルMacaca fuscataを対象に、性別やライフステージの違いによる個性の表現型の特徴を明らかにし、その適応的意味を検討した。
 2022年に石川県白山市に生息する群れで個体の逃走開始距離(FID)を測定した。FIDは個性形質の一つである大胆さの指標である。性的に成熟した20個体を識別し、オス、メス(2022年にアカンボウを産まなかった個体)、アカンボウ持ちメス(2022年に子供を産んだ個体)の3つの属性クラスに分類し、FIDを142回測定した。
 線形混合モデル(LMM)により、FIDに影響を与えると考えられる要因の影響を検討した。固定効果を属性クラス、同一個体の測定順番、個体の位置の林縁からの距離(出没距離)、ランダム効果を個体とした。また、Steel-Dwassの多重比較により、属性クラス間のFIDの差を検討した。LMMで得られた最適モデルを基に反復率(repeatability)を計算した。
 LMMでは出没距離のみがFIDに影響した。多重比較ではアカンボウ持ちメスのFIDがメスとオスの両方に対し有意に差があった。全個体を対象とする反復率は0.38-0.76(95%信頼区間)で個性が認められる値となったが、アカンボウ持ちメスの反復率は0.0-0.68と個性が認められなかった。アカンボウ持ちメスの危険回避行動には大きな淘汰圧がかかっており、他のライフステージでは適応的な大胆さに関する個体差が一時的に隠蔽されたと考えられた。また、オスの反復率の平均値はメスより大きかったが、有意差はなかった。性選択仮説のhonest indicator modelに基づく、オスの反復率はメスより大きいという予想に反した。


日本生態学会