| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-068  (Poster presentation)

谷津干潟におけるハシボソガラスによる外来性二枚貝の餌落とし行動【A】
Prey-dropping behavior in carrion crows when feeding invasive bivalves in Yatsu tideland【A】

*秦陸歩, 井上英治(東邦大学)
*Rikuho HATA, Eiji INOUE(Toho Univ.)

 餌落とし行動は、鳥類が殻に包まれた餌を空から地面に落とすことで、その殻を割り中身を食べる行動である。この行動は餌を落とす場所や高さの選択やその学習に関する研究は多いが、行動頻度の季節性など採食生態に関する研究は少ない。谷津干潟では、ハシボソガラスが1990年代に侵入した外来種であるホンビノスガイを落とし、貝を割る行動が目撃されている。本研究は、谷津干潟で見られる餌落とし行動の季節変動を明らかにし、その要因について考察した。
 2021年4月から2022年12月まで毎週1回以上、谷津干潟周辺の遊歩道上に設定したルートを歩き、餌落とし行動の痕跡である割れた貝殻の発見数を記録し、調査時に餌落とし行動が観察された場合はその詳細を記録した。また、2021年7月から2022年12月まで月2回以上、定点調査を行い、カラスの干潟利用の調査や餌落とし行動の観察を行った。
 痕跡の発見数は、繁殖期である3-6月で多く、非繁殖期である11-1月に少ない傾向にあり、特に5-6月と11-12月は2021年、2022年とも同じ傾向であった。2022年の直接観察において、抱卵から巣立ちの時期である4-7月に観察された40例の餌落とし行動のうち、30例で貝の身を巣へ運んだと推定される移動や幼鳥への給餌などが観察された。このことから、繁殖期は周辺で営巣している複数のつがいが餌落とし行動を行っていたことが示唆され、そのために痕跡の発見数が多かったと考えられる。一方、非繁殖期である11-1月は、カラスの干潟利用の頻度が減少したことが痕跡の発見数が少なかった理由であると考えられ、直接観察で餌落とし行動の失敗が見られたことから、繁殖期に利用していたつがい以外の個体も含め餌落とし行動を行っていると考えられた。以上のように、谷津干潟で見られる餌落とし行動は、カラスの繁殖の季節性と関連して季節変動が見られることが明らかになった。この季節性は、餌落とし行動の学習を考える上でも重要になると考えられる。


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