| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-072  (Poster presentation)

アザラシ科Pusa属Phoca属における頬歯の形態と食性との関係【A】【E】
Postcanine tooth morphology of Pusa and Phoca seals and its relation to their diet【A】【E】

*石原有乃(総合研究大学院大学), 渡辺佑基(総合研究大学院大学, 国立極地研究所)
*Uno ISHIHARA(SOKENDAI), Yuuki WATANABE(SOKENDAI, NIPR)

歯の形態が食性と関連していることは、多くの動物で報告されている。動物プランクトン捕食者の南極のアザラシの先行研究から、前臼歯(ヒトでいう小臼歯・大臼歯)にある切れ込み(鋸歯)は、小さい動物プランクトンを口内に留め水を排出する、篩の役割を持つと考えられている。しかし、前臼歯の形態と食餌の関係についての研究は南極のアザラシに偏っており、北半球のアザラシの知見は乏しい。加えて、近年のバイオロギングの先行研究から、北半球のアザラシの一種であるバイカルアザラシで高い動物プランクトンの捕食率と、目視による前臼歯の高い鋸歯具合が確認され、北半球のアザラシでの前臼歯と食餌の関係を調査する必要性が強調された。そこで本研究では、北半球のアザラシの歯形態と食餌の関係について知見を追加すること、そしてアザラシ科全体で歯形態と食餌にどのような関連が見られるか、の二点の解明を目的とした。国立科学博物館に収蔵されているアザラシ(13種、169個体)の骨格標本を撮影し、ImageJを用いて鋸歯具合や歯間の大きさ等を含む、前臼歯の形態を測定した。結果、高い端脚類捕食率が報告されたバイカルアザラシが、その近縁種よりも非常に高い鋸歯具合を持ち、歯間等においても特異的な形態を持つことが分かった。加えて、アザラシ科全体では、前臼歯の鋸歯具合が高い程、そして歯間の大きさは中程度の種程、動物プランクトンの胃内容物検査における出現率が高くなることが明らかとなった。これらの結果は、前臼歯の鋸歯具合は小さい動物プランクトンの捕食に有用な形質であることを示唆している。また、中程度の歯間が小さい動物プランクトンを多く捕食する種で見られた点は、歯間が大きすぎると小さい餌の流出の恐れがあり、小さすぎると水の排出が効率的でない為ではないかと考察される。


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