| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-073  (Poster presentation)

森林性ネズミによる虫害堅果の採餌戦略:開放・閉鎖系の野外操作実験【A】
Foraging strategy of insect-infested acorns by wood mice : comparative analysis of field experiments in opened and closed conditions【A】

*梶田瑠依, 梶村恒(名古屋大学)
*Rui KAJITA, Hisashi KAJIMURA(Nagoya University)

動物が採餌によって多くの利益を得るには、質の良い餌を短時間で多く確保し、また自らが捕食されるリスクを回避する必要がある。そのためには、餌の適切な選択が重要となる。
森林性ネズミは堅果を好んで採餌する。しかし、堅果は必ずしも健全ではなく、様々な状態 (質) で混在している。その多くは、内部が昆虫に摂食されている虫害である。虫害堅果は餌としての価値が低いため、ネズミは堅果を調べて健全堅果を選ぶのが得策である。一方で、堅果を調べている時は、捕食や競争者からの妨害に遭うリスクがある。このジレンマを抱えたネズミの採餌戦略を解明するため、開放系と閉鎖系の野外実験を行った。クリの虫害堅果 (ガ類:摂食後脱出済み) と健全堅果の両方をトレイに載せ、アカネズミ (以下、アカ) とヒメネズミ (以下、ヒメ) が生息する森林の地面に置いた (開放系)。この森林で、2020年は2種とも個体数が多く、2022年は少数ながらヒメが優占した。また、同じ堅果セットと、捕獲したアカあるいはヒメを1頭、シートで囲み、上部にテープを張り巡らせた (猛禽類対策) 場所に入れた (閉鎖系)。各実験でネズミの採餌行動を撮影した。
その結果、2020年の開放系では、アカがヒメより堅果を高頻度に持ち去り、アカによるヒメの採餌妨害が2回確認されたが、その逆はなかった。一方で、2022年は全てヒメが持ち去った。さらに、堅果を調べる割合は、アカは開放系と閉鎖系で差が無く、ヒメは開放系より閉鎖系で大きかった。また、その割合を閉鎖系の種間で比べると、ヒメはアカより大きかった。
したがって、ヒメはアカより堅果を先に見つけ、よく調べる習性があるが、アカ (競争者) や捕食者の存在で負の影響を受け、そのために採餌戦略を柔軟に切り換えることが示唆された。対照的に、アカはヒメより競争上優位に立ち、捕食者も気にしないことから、その切り替えは不要と考えられる。


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