| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-076  (Poster presentation)

胸鰭の屈曲角度がイトマキエイの滑空性能に与える影響【A】【B】
The effect of pectoral fin bending angle on the gliding performance of Mobula japanica.【A】【B】

*大林祐之介(岩手大・院・理工), 澄川太皓(岩手大・院・理工), 上野和之(岩手大・理工)
*Yunosuke OHBAYASHI(Graduate School of Iwate Univ.), Hiroaki SUMIKAWA(Graduate School of Iwate Univ.), Kazuyuki UENO(Iwate Univ.)

「滑空」は鳥類や魚類から昆虫類まで,多様な生物にみられる移動方法である.その中でも外洋性のエイ類は,移動時のエネルギーを節約するために水中で頻繁に滑空をおこなう.我々はイトマキエイが滑空時に胸鰭をU字状に曲げることに着目した.主翼である胸鰭を大きく曲げる滑空姿勢は他の生物には見られず,イトマキエイがこの姿勢を取る理由は不明である.
 そこで本研究では,イトマキエイがU字姿勢で滑空する理由は「胸鰭をU字に曲げると滑空性能が向上する」からであるという仮説を立て,コンピュータを用いて流体の挙動をシミュレーションする数値流体解析手法を用いて検証を行った.解析では胸鰭の屈曲角度を0,30,60,90[deg]と変化させたイトマキエイのモデルに対して0~14[deg]まで2[deg]刻みで迎角を与えた.さらに滑空速度1[m/s]を流速として与え,イトマキエイの滑空現象を再現した解析をおこなった.
 解析の結果,胸鰭を曲げると揚抗比が上がり,滑空性能が向上することが分かった.そのため我々の仮説は支持された.また,イトマキエイ周辺の流れを可視化したところ,胸鰭先端の翼端渦が重力方向に吹き降ろしを発生させ,イトマキエイの揚抗比に影響を与えていることが分かった.さらに,イトマキエイの迎角と胸鰭の屈曲角度の組み合わせによって得られる揚抗比の傾向が異なったことから,実際のイトマキエイは状況によって胸鰭の屈曲角度を使い分けていることが示唆された.


日本生態学会