| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-082  (Poster presentation)

チョウセンカマキリにおける性的共食いに伴う交尾の延長と配偶者防衛の強化【A】
Prolonged mating and enhanced mate guarding associated with sexual cannibalism in the praying mantis Tenodera angustipennis.【A】

*西野大翔, 高見泰興(神戸大学)
*Hiroto NISHINO, Yasuoki TAKAMI(Kobe Univ.)

性的共食いとは、交配の際に雌が同種の雄を捕食する行動であり、クモやカマキリといった一部の節足動物でよく見られる。性的共食いは雌にとっては摂食量を増やし、より栄養を得ることができるという点で適応的であるが、雄は以後の交尾の機会を失うという大きなコストを被る。よって、雄はこのようなコストを避ける、あるいは補償するような行動を進化させると予測される。また、交尾後に雄が雌に付き添い、他の雄との交尾を防ごうとする配偶者防衛行動は、雌が多回交尾を行う種で適応的である。性的共食いを受けたカマキリの雄は、交尾時間を延長する事が知られており、これがライバル雄に対する配偶者防衛として機能する可能性がある。しかし、性的共食いされた雄の行動の適応的意義についての研究はほとんどない。
そこで、野外集団において性的共食いが起こることと、雌が多回交尾を行うことが知られているチョウセンカマキリを用いて、「交尾による雌との接触自体がライバル雄に対する配偶者防衛として機能する」、「共食いによる交尾時間の延長が配偶者防衛機能を強化する」という仮説を立て、行動実験により検証した。結果、交尾中の雄はライバル雄に雌を奪われることはなく、交尾後の精包付着期間中も雌は再交尾しなかったため、交尾自体が配偶者防衛として機能していることが示された。一方、交尾時間は性的共食いにより延長するが、雌の再交尾までの時間は共食いされなかった雄と差がなかったため、配偶者防衛の能力を高めるとは言えなかった。これは、性的共食いを受けていない雄は交尾後も雌の近くに留まり、他の雄を牽制したり交尾を積極的に妨害できるのに対し、性的共食いを受けた雄はそれができないことが原因として考えられた。よって、性的共食いを受けた雄は共食いされていない雄が行う配偶者防衛ができなくなるというコストを交尾時間を延長することで補償している可能性がある。


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