| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-084  (Poster presentation)

殺虫剤に曝露したアリの行動変化と体表ワックスの関係【A】
Relationship between behavioral changes and body surface wax of insecticide-exposed ants【A】

*森川優希(近大院・農), 瀬古祐吾(国立環境研究所), 米谷衣代(近大・農), 早坂大亮(近大・農)
*Yuki MORIKAWA(Grad sch agric, Kindai Univ), Yugo SEKO(NIES), Kinuyo YONEYA(Fac Agric, Kindai Univ), Daisuke HAYASAKA(Fac Agric, Kindai Univ)

アリ類をはじめとする社会性昆虫は,病原体への感染リスク(自然的脅威)を避ける手段として,コロニーメンバー間の情報交換を介した「社会性免疫」とよばれる集団的な防御をおこなう.近年,社会性免疫に類似する行動が,殺虫剤曝露のような化学的脅威に対しても現れる可能性が指摘されはじめている.しかし,現時点で,情報化学物質の変化を介した個体間(殺虫剤曝露-非曝露)の相互作用を詳細に捉えた研究,すなわち殺虫剤曝露に対する社会性免疫のメカニズムに迫る議論は進んでいない.そこで本研究では,社会性免疫のような防御機構が殺虫剤の効果に与える影響の実態を解明すべく,遅効性殺虫剤がアリの個体間相互作用に与える影響を,行動学的および生理学的側面から評価した.行動学的試験では,曝露個体数の違いや女王の存在が非曝露個体の行動に及ぼす影響について動画解析によって評価し,生理学的試験では,殺虫剤曝露による,時間経過にともなう体表ワックスの組成を,ガスクロマトグラフィー(GC)分析で解析した.供試薬剤は殺虫剤フィプロニルを用いた.行動試験の結果,ほぼすべての曝露個体で,薬剤に曝露された直後から開口行動のような異常行動がみられ,非曝露個体はそれに呼応するように,曝露個体数が少ない条件ではグルーミングの増加,多い条件では栄養交換の減少といった,既存の社会性免疫研究で報告されてきた行動を示した.これは,アリ類が化学的脅威のレベル(曝露個体数)に応じた対応をとる可能性を示唆するものである.他方で,GC分析からは,曝露個体の体表ワックスが個体間の相互作用を変化させる証拠も,ワックスの組成比が曝露後の時間とともに変化する実態も確認できず,殺虫剤曝露による行動変化と体表ワックスとの関係は検出されなかった.


日本生態学会