| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-089  (Poster presentation)

リュウキュウコノハズクの高密度個体群における行動圏と採餌行動の多様性【A】
Diversity of home ranges and foraging behavior in a high-density population of the Ryukyu scops owl【A】

*熊谷隼(北海道大学), 澤田明(国立環境研究所), 江指万里(北海道大学), 金杉尚紀(北海道大学), 高木昌興(北海道大学)
*Shun KUMAGAI(Hokkaido Univ.), Akira SAWADA(NIES), Mari ESASHI(Hokkaido Univ.), Naoki KANASUGI(Hokkaido Univ.), Masaoki TAKAGI(Hokkaido Univ.)

地理的に隔離された小個体群は、大陸とは異なる生態的関係性を経験する。一般に島嶼では種多様性が低く、特定の種の個体群密度が大陸と比較して高くなることがある。これは密度補償と呼ばれる、隔離小個体群に特有の現象である。密度補償によって個体群密度が高くなると、資源をめぐる種内競争は激化すると予測される。しかし、なわばりの形成・維持を片方の性が担うような種では、激化する種内競争による行動や生態への効果が雌雄で異なると予想される。密度補償がその種の行動に与える効果の性差に着目した研究は少ない。
沖縄県南大東島には、リュウキュウコノハズクが高密度で生息している。本種はこの島において最高次捕食者であり、また競合するような他種も存在しないため、捕食圧や種間競争を考慮せず、種内競争による効果を詳細に検出することが可能である。
本研究では、このリュウキュウコノハズクの高密度個体群を用い、種内競争が育雛期の採餌行動に与える影響の解明を試みた。野外調査によるなわばり分布の推定、GPSロガーによる行動追跡、動画撮影による給餌記録を行い、繁殖巣から最も近い他個体までの距離(隣接個体間距離)が行動圏や採餌に与える影響とその性差を検証した。オスの給餌回数は隣接個体間距離が近いほど有意に少なくなったが、メスでは影響がみられなかった。なわばりの形成・維持を主にオスが担う本種では、他個体が近いとなわばり防衛行動が特にオスにおいて増加し、オスのみの採餌行動に他個体による影響が表れたと考えられる。一方、行動圏面積と隣接個体間距離には雌雄ともに関係がみられなかった。夜行性ゆえの直接的闘争の回避や、他個体を認識しつつも許容するDear enemy effectがはたらき、個体によってはなわばりより広い行動圏をとっている可能性がある。密度補償と激化する種内競争によって、雌雄で異なる行動や採餌戦略が形成される可能性が示された。


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