| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-095  (Poster presentation)

兵庫県におけるニホンジカの繁殖特性に影響を及ぼす要因分析【A】
Analysis of factors effecting reproductive characteristics of sika deer on Hyogo Prefecture, Japan【A】

*倉本蘭, 横山真弓, 藤木大介, 高木俊(兵庫県立大学)
*Ran KURAMOTO, Mayumi YOKOYAMA, Daisuke FUJIKI, Shun TAKAGI(University of  Hyogo)

 シカ類においては、高密度化による繁殖や栄養状態の低下が知られており、管理を行う上で、環境と個体群パラメータとの関係性を把握することが重要である。兵庫県ではニホンジカCervus nippon(以下、シカ)について、2002年から繁殖と栄養状態の長期モニタリングを行っている。本研究では、生息密度や食物資源の変化、気象条件、年齢、栄養状態が、シカの妊娠率に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
 データは2002年から2020年度の捕獲個体326頭に加えて、2021年12月~2022年3月にかけて新たに208頭の捕獲個体から得た。捕獲日、捕獲場所、体重を記録し、シカの子宮、卵巣、胎子、歯を採取した。妊娠率に影響を及ぼす要因を明らかにするため、一般化線形モデルを用いて、目的変数を妊娠の有無とし、説明変数を亜成獣・成獣 (以下、年齢)、捕獲日、体重として栄養状態が妊娠に及ぼす影響を分析した。また、説明変数を年齢、農地面積、下層植生衰退度、前年の冬の平均最低気温、人工林率、林縁長、生息密度(捕獲した年度、捕獲した年度と1~3年分遡った値の累積)として環境要因が妊娠に及ぼす影響を分析した。
 その結果、妊娠率には、年齢と体重が有意な説明変数として選択され、妊娠可能となる閾値体重は、約35㎏と推定された。環境要因の結果は、2015年までの妊娠率では、4年間分の累積密度と捕獲地点周辺の農地面積が選択された。ただし、2021年度の妊娠率は、生息密度の影響が認められず、前年の冬の平均最低気温と林縁長、農地面積が選択された。2021年度の捕獲地点における4年間分の累積密度は、それ以前より大幅に高いことから、森林内の食物資源が著しく低下している状況となったことで、林縁や集落周辺の環境を利用し、食物を得ることができた個体が妊娠できたと推定された。以上から、シカの妊娠率に影響を及ぼす要因は年代によって異なるが、高密度状態が長期間継続したことによる影響を強く受けていると推定された。


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