| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-103  (Poster presentation)

多様な捕食者に対するニホンアマガエル幼生の可塑的表現型による応答:形態と呈色【A】
Responses by plastic phenotypes to multiple aquatic predators in tadpoles of the Japanese tree frog, Dryophytes japonicus: size, shape and coloration【A】

*野田叡寛, 渡辺勝敏(京都大学)
*Akihiro NODA, Katsutoshi WATANABE(Kyoto Univ.)

両生類の幼生は、捕食者–被食者関係における防衛形質の誘導や捕食回避戦略の研究に用いられてきた。一部の種においては、ヤゴ類に対して尾の拡大という形態的応答を示すとともに尾部に鮮やかな呈色が誘導されることが知られており、尾への攻撃を誘引して致命傷を回避する役割があると考えられている。一方で、その応答の程度が捕食者間で異なるのかは十分に知られていない。そこで私たちは、ニホンアマガエル幼生を対象に、捕食者応答の程度が複数のヤゴ種を含む捕食者間で異なるのかどうかを調べることを目的に、以下の実験を行った。2022年6月に京大附属農場で採集した複数の成体ペア由来の幼生をランダムに水槽に振り分け、採餌様式と生息環境の異なる4種のヤゴ(クロスジギンヤンマ、カトリヤンマ、ウスバキトンボ、シオカラトンボ)各々とともに実験室内で飼育し、尾部形態の変化と呈色の誘導の有無を調べた。飼育実験開始から2週間後では、クロスジギンヤンマと飼育した群で尾高の拡大や彩度の上昇など、形態変化と呈色双方による応答がみられた。また3週間後には、ウスバキトンボ、あるいはシオカラトンボと飼育した群においても、程度は小さいながら尾高の拡大や尾の彩度の上昇などの応答がみられた。したがってニホンアマガエルの幼生における捕食者応答は、ヤゴ種によってその程度や速さに違いがあることが明らかになった。加えて、同年5月に採集した幼生において、コオイムシ、タイコウチ、イモリを用いて同様の実験を行ったところ、3週間経過後にも尾高の拡大や呈色は見られなかった。よって本種の幼生においては、尾の形態変化や呈色を伴う捕食者応答は特定のヤゴ種に対してのみ見られるものであると考えられる。今回応答がみられなかった捕食者に対しても、行動の変化や化学物質の分泌等による別の応答がみられる可能性があり、それらも合わせて捕食回避戦略を包括的に理解する必要がある。


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