| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-107  (Poster presentation)

近代的水田におけるツチガエルの早期変態とその個体群動態への影響【A】【E】
Early metamorphosis of the wrinkled frog in modernized rice fields and its demographic consequences【A】【E】

*木村楓, 曽田貞滋(京都大学)
*Kaede KIMURA, Teiji SOTA(Kyoto University)

人間活動による環境変化が進むなか、生活史の可塑性は個体群の存続を可能にする手段の一つである。しかし生活史上の生存と繁殖のトレードオフのために、生活史のある時点で適応的な可塑性の裏には、他の時点でのコストが存在している可能性がある。両生類は干上がりや捕食ストレス下で早期に変態することが知られる。この生活史の可塑性は、両生類が湛水期間の短い近代的水田で生き残るためにも重要となりうる。早期変態は幼生の生存率を向上させる一方、体サイズの低下を通じて変態後の繁殖力が低下すると予測される。しかしながら、水田の近代化という人為的な環境変化に対して両生類が早期に変態できるのか、そしてそれが生涯の繁殖成功、ひいては個体群動態にどう影響するのかよく分かっていない。
そこで幼生期間が長く湛水時期の影響を受けやすいと考えられるツチガエルに着目し、本種が近代的水田で変態時期を早めているのか、そしてそれが成体の繁殖力にどのような影響を及ぼすか、明らかにすることを目的とした。京都市付近の水田と河川計5地点における約1年の野外調査の結果、ツチガエル幼生は著しい変態時期の変異を示し、湛水期間の短い水田では越冬幼生が全く見られない一方、河川上流部ではほぼすべての幼生が越冬すると推定された。また越冬幼生は年内変態幼生よりも変態時の体サイズが大きかった。水温と水深を操作した屋内飼育実験から、野外の幼生生活史の変異は水温の違いによる可塑性だと考えられた。幼生の生活史と成体の繁殖力の関係に目を向けると、野外において幼生越冬が多く変態サイズが大きい地点では成体も大型であった。また大型の成体ほど、雌では自身の産卵数が、雄では交配相手の産卵数が多かった。以上のことから、ツチガエル幼生は水温が高い水田において早期に変態し、冬季乾田となる環境でも生存できるものの、成体サイズが減少し、繁殖力が低下する可能性が示唆された。


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