| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-109  (Poster presentation)

林内におけるスズタケ種子の供試実験:利用する動物種の特定とその行動解析【A】【B】【E】
Feeding test with seeds of Sasa borealis in the forest: Identification of the animal species to utilize the seeds and analysis of their behavior【A】【B】【E】

*鈴木華実, 梶村恒(名古屋大学)
*Hanami SUZUKI, Hisashi KAJIMURA(Nagoya Univ.)

 イネ科タケ亜科の植物は、数十年から百年を超える栄養繁殖の後、複数個体が同調した大規模な有性繁殖を行い、大量の種子を生産 (以後、一斉結実) した後、枯死する。タケ・ササ類の一斉結実は、代表的な種子食者である野ネズミの個体数増加を招くことが世界的に知られており、植物が動物に与える作用の顕著な事例として研究されてきた。一方で、動物から植物への作用として、タケ・ササ類の一斉結実にどのように野ネズミが反応しているのか、実際は野ネズミ以外にも利用する動物がいるのかについては、不明である。そこで本研究は、2016年から2017年にスズタケの一斉結実が発生し、枯死稈が残存する森林で、スズタケ種子の供試実験を行った。この際、動物の採餌様式に影響する環境要因を解明するため、異なる季節、林分構成樹種、林床環境(スズタケ枯死稈を含む下層植生の有無)で比較するように計画した。各条件下に一定量のスズタケ種子を浅い網籠に入れ、この餌場に自動撮影カメラを設置してモニタリングした。その結果、アカネズミとヒメネズミが種子を採餌する様子が記録された。予想通り、種子をその場で消費する捕食行動が確かめられたが、持ち去りや埋めるといった散布行動も発見された。一粒25 mg程度の小さな種子が野ネズミの貯食対象となることが判明したのである。さらに、アカネズミは下層植生のある場所で種子を捕食し、下層植生のない場所では持ち去る行動に切り替えたが、ヒメネズミは下層植生があっても持ち去ることが多かった。加えて、野ネズミの複数個体が同時に餌場に現れた場合、異種が遭遇すると、その到着順に関わらず、ヒメネズミがアカネズミを避けていた。これらの事実から、スズタケ種子をめぐる野ネズミの種間競争に明らかに優劣があることが示唆された。また、アカネズミは夏よりも秋の方がスズタケ種子の利用頻度が低くなり、この時期は堅果を優先していると推察された。


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