| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-116  (Poster presentation)

カリガネソウの曲がる花茎は雄の繁殖成功を高める【A】
Flexible flower stalk promotes male reproductive success in Tripora divaricata【A】

*Masaki MASUDA, Atsushi USHIMARU, Airi ASADA(Kobe Univ.)

 花の多様性は、単純花から複雑花が進化することで増加してきた。複雑花の進化に関する送粉正確性向上仮説では、複雑花は、花の構造によって送粉者の動きを制御し、送粉者の特定部位に正確に花粉を付着させ、送粉効率を増加させているとしている。複雑花の中には、その構造だけでなく、可動な花器官をもつことで送粉者上の花粉付着位置を限定するものがみられる。しかし、これらの花における、花器官の可動性の送粉・繁殖成功への影響については、実験的には検証されていない。本研究では、訪花時に花茎が屈曲することで花全体が動く花をもつカリガネソウを対象とし、花の可動性の適応的意義を検証した。
 本研究では、カリガネソウの花茎屈曲を制限する野外操作実験を行い、訪花観察と雌雄の送粉・繁殖成功への影響を調べた。また、雌雄の送粉成功の経時変化差異、送粉者-花器官のサイズマッチングと体表の花粉付着位置について調査を行った。
 花茎屈曲を制限した実験花において葯内残留花粉数は、対象花に比べて有意に多かったことから、花茎屈曲は雄の送粉成功を増加させることが示唆された。一方で、花茎屈曲の柱頭付着花粉数と結実率への影響はみられず、雌としての成功には寄与しないことが示唆された。自然送粉を受ける花において、雌の送粉成功の増加は開花後1時間で頭打ちがみられた一方、雄の送粉成功はゆるやかに増加したことは、雄の送粉成功には、雌の成功に比べて多くの訪花が必要であることを示唆した。
 カリガネソウの花粉は、マルハナバチの体サイズによらず、腹部に最も多く付着していた。また、マルハナバチの体長と、花筒口-葯・柱頭間距離が一致していたことから、カリガネソウは、花茎の屈曲時に雄蕊をマルハナバチの腹部と接触させ、腹部に花粉を付着させていることが明らかになった。以上、カリガネソウにおける発見は、送粉正確性向上仮説を支持する結果であった。


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