| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-118  (Poster presentation)

作業記憶は鮮度が命:植物種の混生度がマルハナバチの記憶動態と定花性におよぼす影響【A】
Effects of spatial arrangement of flowers on the memory dynamics and flower constancy of Bumblebee【A】

*高木健太郎, 大橋一晴(筑波大学)
*Kentaro TAKAGI, Kazuharu OHASHI(Tsukuba Univ.)

ハナバチなどは、同種の花を連続訪問する「定花性」を示すことが多い。定花性は、色や形が異なる花の探索イメージを作業記憶に呼び出すのに費やす時間(呼び出しコスト)を節約するための行動と言われている。このことから、植物は付近の他種とは異なる花形質をもつことで呼び出しコストを増大させ、異種間交雑をふせいできた可能性が指摘されている。ただし、定花性は植物の空間分布にも依存するだろう。例えば、同種どうしが空間的に集中する状況ほど、定花性にともなう飛行コスト(同種間飛行コスト)は低下すると考えられる。さらに、これに付随して、同種を連続訪花する間に異種の探索イメージが作業記憶から薄れていくかもしれない。そこで我々は、色のみが異なる2種の人工花(青・黄)を用いた室内実験によって、「同種間飛行コストの低下にともなう同種への連続訪花が、異種の記憶の呼び出しコストの増加を通じ、定花性をさらに促進する」という仮説を検証した。実験には、2種の花の混在度が異なる3種類の配置パターンを用意した。また、それぞれについて高密度(花間距離3.5 cm)と低密度(花間距離20 cm)の条件を用意し、クロマルハナバチの訪花順序を記録した。この結果、同種が集中する配置ほどハチの定花性が高まるだけでなく、ハチが異種に切り替える際の飛行時間が延びる傾向が認められた。さらに、一方の種への連続訪花数が増えるほど、ハチが訪花する種を切り替える確率が急速に減少する傾向もまた認められた。一方、低密度になるといずれの配置も定花性は低下した。また、配置によらず切り替え時の飛行時間が同様に長くなった。これは、移動に時間がかかる状況では、直前に訪れた種の探索イメージも作業記憶から薄れてしまうためであろう。以上の結果は、野外では群集内の植物の空間分布によって、交雑の起こりやすさ、ひいては花形質の多様性の度合いに違いが生じる可能性を示唆している。


日本生態学会