| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-120  (Poster presentation)

コケに隠蔽擬態するシリブトガガンボ類の幼虫における体色と生息環境の比較【A】
A color analysis of larval body and their habitat in cylindrotomid crane-flies camouflaging mosses【A】

*進藤帆乃佳, 今田弓女(愛媛大学)
*Honoka SHINDO, Yume IMADA(Ehime Univ.)

 植食性昆虫において植物への隠蔽擬態(カモフラージュ)は広く知られ、その擬態に関わる形態が食性や生息環境といった生態といかに関連しているかは興味深い問いである。シリブトガガンボ亜科昆虫の多くの種の幼虫はセン類(コケ類の一群)を餌とし、また体色と模様、多数の肉質突起によって巧妙に背景に同化する。本研究では、シリブトガガンボ亜科幼虫の体色とその変異幅が、食性や生息環境およびその幅といかに関連するかを究明した。
 日本に産するセン類食の5種の幼虫形態を観察したところ、体色、背面突起の形状、色素斑で構成される模様の形状といった形質に著しい種間差が見られた。また、本州・四国における幼虫の野外での食性調査から、マゴケ目チョウチンゴケ科のみを食べる狭食性、チョウチンゴケ科とハイゴケ目4科を食べる広食性といった、食性幅の種間差が見出された。上記の5種間では幼虫の生息環境も異なり、チョウチンゴケ科のコケ上、ハイゴケ目のコケ上、土・落葉上といった環境から見つかった。これらの知見を踏まえ、写真を用いた色解析によって、(1)各種の体色が生息環境の色と類似するか、(2)体色の種内変異幅は生息環境の幅と関連するか、(3)幼虫体表の透明なクチクラがもつ透過性により、背景同化の精度を高めるかを検証した。その結果、(1)検証に用いた4種の体色はいずれも生息環境の背景色と最も近いことが示された。(2)生息環境の幅が広い種において体色の変異幅が広いといった傾向が見られた。(3)同一個体であっても体色は背景色の影響を受けており、背景色の透過が検出された。
 本研究は、体色幅とその生息環境の幅が相関することを種間・種内変異に着目して定量的に示した。また、シリブトガガンボ類で検出された「透過による背景同化の微調整」は、陸生動物では数少なく、注目に値する。


日本生態学会