| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-134  (Poster presentation)

ジェネラリスト送粉者は、個体レベルではスペシャリストであるのか?【A】
Can generalist pollinator be specialist at the individual level?【A】

*瀬尾夏未(神戸大学), 丑丸敦史(神戸大学), 石井博(富山大学)
*Natsumi SEO(Kobe Univ.), Atushi USHIMARU(Kobe Univ.), Hiroshi S ISHII(Toyama Univ.)

送粉昆虫には、特定の期間中に、特定の花(植物種)のみを採餌場所として利用するスペシャリストと、複数種の花を同時に利用するジェネラリストが存在する。例えばマルハナバチ類では、特定の花を連続して訪れる性質が見られ、一般的にはスペシャリストであるとされている。一方で、ハナアブ類やその他のハエ目昆虫、小型ハナバチ類などは、同時期に様々な花を利用するジェネラリストとされ、それゆえ送粉効率が高くないとされてきた。暗黙の了解であったこれらの考えは、それぞれの昆虫群の種を単位とした訪花行動の観察に依拠している。しかし、種としては多様な植物種に訪花するジェネラリストであったとしても、個体ごとでは一部の植物種しか利用しないスペシャリスト的振る舞いをする場合、各個体は植物の繁殖成功を促進する存在になりうる。しかし研究の多いマルハナバチ・ミツバチ以外の訪花昆虫類については、実験環境下だけでなく、野外環境下における訪花行動すら定量的に調べられてない。本研究では、任意に設定した半径2.5mの円型プロットにおいて、多様な訪花昆虫について野外で個体ごとに訪花履歴を記録することで、同種間飛行率を定量的に調べ、種・機能群間で比較を行った。その結果、多くの昆虫種において程度の差はあるものの、個体レベルでは同種植物の花へ連続して訪花する傾向が見られた。また、観察で用いたプロット内の開花植物の多様度が増加すると、ハナアブ類では有意に同種内飛行率が低下することが分かった。これらの発見は、野外においては植物側の開花戦略や昆虫側の訪花行動習性等によって、どのような訪花昆虫であっても高い同種間飛行率が維持されている可能性を示唆している。このように野外環境下で見られた結果には、植物の多様性や空間配置、訪花昆虫の定花性や選好性などさまざまな要因が影響し合っているが、本研究はそのメカニズムの一部を理解するのに役立つかもしれない。


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