| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-135  (Poster presentation)

樹上性アリ類とクビアカツヤカミキリの相互作用:形質変化を介した間接効果と卵捕食【A】
Interactions between arboreal ants and invasive red‑necked longhorn beetle Aromia bungii: trait-mediated indirect effects and egg predationts【A】

*上田康貴, 加賀谷隆(東大院・農学生命科学)
*Yasutaka UEDA, Takashi KAGAYA(Tokyo Univ.)

クビアカツヤカミキリ(クビアカ)は,近年日本に侵入定着した外来種で,バラ科樹木に大きな被害を与えているが,天敵による密度抑制効果に関する知見は乏しい。樹上性アリ類にクビアカの卵を与えると攻撃・捕食行動を示すことは室内で観察されているが,他の食物が存在する野外条件下でのアリ類の応答は不明である。幼虫の加害によりストレスを受けたサクラでは,樹幹下部に胴吹きと呼ばれる不定枝が発生し,胴吹き葉とアリ類が利用する花外蜜腺は増加する可能性がある。また,脱出孔の形成や腐朽により樹木表面の木部露出範囲が広がり,アリ類の営巣適地が増加する可能性もある。本研究は,サクラの形質改変を介したクビアカからアリ類への正の間接効果について検討するとともに,野外におけるアリ類のクビアカの卵への攻撃や捕食を明らかにすることを目的とする。
埼玉県草加市の調査地において,各サクラ個体の胴吹き葉量,木部露出部量は,いずれもクビアカの被害継続年数と正の関係を示した。アリ類の樹木あたり総個体数は,サクラ個体の胴吹き葉量,木部露出部量のいずれとも正の関係を示し,これらの変数によるアリ類総個体数の説明力は,サクラ個体の他の形質の説明力よりも高かった。クビアカの卵をサクラ樹幹に設置した野外実験により,調査地で優占するアリ種は卵を探知し捕食または運搬すること,短時間で卵は除去されることが確証された。本研究により,クビアカ幼虫の加害はサクラの形質改変を介して樹上性アリ類の生息数を高めること,サクラの樹上に生息するアリ類がクビアカの卵へ与える負の効果は高いことを示す証拠が得られた。3年にわたり被害を受けたサクラでは,胴吹き葉量は無被害木に比べ2倍,木部露出部量は1.5倍に,アリ総個体数は被害1~3年で2倍,4年以上で3倍近くに達した。したがって,アリ類による卵の捕食が,被害樹木周辺のクビアカ密度の増加抑制に寄与する可能性は高いといえる。


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