| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-136  (Poster presentation)

サイハイランの実りがないのは誰のせい?結果率に対する送粉者と種子食害者の影響【A】
Effects of pollinators and seed predators on the fruits set of Cremastra variabilis【A】

*島田真彦, 北村俊平(石川県立大学)
*Shimada MASAHIKO, Shumpei KITAMURA(Ishikawa Pref Univ)

本研究では、石川県金沢市の広葉樹二次林でパッチ状に分布するサイハイランを対象に、2年間の送粉生態と散布前種子捕食を調査した。サイハイランは多量に花蜜を生産し、トラマルハナバチ女王のみに送粉を依存するが、結果率が非常に低い(開花数の1.3%未満)。まず、本種の低い結果率が、送粉者制限によるものか散布前種子捕食によるものかを検証した。次に、開花数の異なるパッチ間で送粉者の訪花回数と捕食果実数を比較し、開花数が送粉者と種子捕食者を介して、本種の繁殖成功に与える影響を評価した。本種の開花期間中は4~5日おきに各パッチ(2花序16花~20花序310花)の開花数と個花内の花粉塊の持ち去り個数を記録した。送粉生態調査には自動撮影カメラLtl-Acron6210を使用し、撮影された動画から、トラマルハナバチ女王の訪花回数と花粉塊の付着の有無を記録した。
2021年の訪花回数は401回、2022年は347回で、パッチの平均開花数とトラマルハナバチ女王の訪花回数は正の相関を示した(P<0.05)。パッチの平均開花数と花粉塊持ち去り数、初期結果数も正の相関を示した(P<0.05)。いずれも直線的な関係であり、1花あたりの訪花確率は一定であった。本種はパッチの開花数によらず送粉者が訪花し、花粉親と種子親両方において繁殖成功が期待できると示唆された。調査花序の初期結果数は、2021年は225個(結果率28.2%)、2022年は274個(結果率36.4%)だった。ランミモグリバエの散布前種子捕食は全パッチでみられ、捕食後の最終結果数は、2021は14個(結界率1.8%)、2022年は4個(結果率0.5%)だった。平均開花数が多いパッチでは果実が散布前種子捕食によって全滅した。一般化線形混合モデルを用いた解析から、パッチの平均開花数が増加すると最終結果数が減少する傾向がみられた(P=0.07)。本種はパッチの開花数によらず、送粉者の訪花が期待できるが、開花数の多いパッチでは散布前種子捕食により種子繁殖が困難になる可能性が示唆された。


日本生態学会