| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-138  (Poster presentation)

長野県中南部の里地里山におけるカミキリムシ科群集の組成と構造および植生との関係【A】
Composition and structure of Cerambycidae communities and their relationship with vegetation in a Satoyama landscape in the Nagano Prefecture, Japan【A】

*吉田詞音, 大窪久美子(信州大学農学部)
*Shion YOSHIDA, Kumiko OKUBO(Shinshu Univ.)

カミキリムシ科 Cerambycidae は、日本に約700種類の存在が知られており、鞘翅目の中でも多くの種数を含むグループである。本科の成虫は摂食のため宿主植物の葉や各種広葉樹の花に訪れる。一方、幼虫は生材から腐朽材まで各種木質組織を摂食するため、繁殖には木材が必要となる。そのため本科群集は植生環境と密接な関係性を有し、特に森林の階層構造下には各層に様々な微小生息地が存在することを反映しうる環境指標として有効であると考えられる。そこで本研究の目的は、異なる植生環境における階層ごとの群集の組成と構造、微小生息地との関係を解明し、環境指標性を検証することとした。
本研究は長野県中南部に位置する信州大学伊那キャンパス(以降、構内)、伊那市小沢川、安曇野市県営烏川渓谷緑地の3調査地で、群集調査は新規手法として3つの階層別によるルートセンサスが行われた。群集解析には多様度指数と類似度指数、TWINSPAN解析を用いた。
 全調査地の全調査期間をとおして本科の60種、401個体が得られた。構内では中層環境が乏しいが、下層で平均多様度H’の値が最大となり、本科の微小生息地として土場環境の重要性が示唆された。小沢川では種数と個体数が最小であったが、全体のH’は最大だった。烏川では、小沢川に続いてH’が2番目に高かったが、相対多様度J’の値は低かった。小沢川-烏川間の類似度指数は高かった。両調査地では落葉広葉樹林が共通に存在し、小沢川は渓畔林要素が占める上層と、開花植物が多い段丘林の中層でH’の値が高かった。烏川では二次林が卓越し、その中でも枯れ枝や藤本類が占める中層でH’が高かった。以上、本群集は渓畔林や二次林など、落葉広葉樹主体の植生環境が重要と考えられた。さらに本科は階層ごとに異なる微小生息地を有し、これらが群集の多様性を高め、複層的な環境指標となり得る要因であると指摘された。


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